軽工業製品など非伝統型輸出か、農業主導か
アフリカのジレンマを考えるUNU/WIDER研究会
今でもアフリカの全人口の大半は農民だ。農業主導型の経済運営がアフリカ大陸発展のカギだと、かねてから言われる理由だ。だが、多くの国がそれにしたがって政策を進めてきたが、貧困からの脱出はまだ実現していない。農業主導の経済成長が思うように離陸できない理由は、疫病、土壌の荒廃、当てにできない降雨量、病害虫など、数え上げればきりがない。マイナス要因が多すぎるのだ。こうしたままならない現実から、最近は外貨収入のための一次産品輸出を軽工業製品とサービス分野の輸出に切り替えるべきだと主張する専門家も少なくない。必要な食糧は外部の温暖な地域から輸入すればよい、というのだ。
こうした声に、その切り替えが可能かどうかを調べることになり、国連大学の世界開発経済研究所(UNU/WIDER、ヘルシンキ)主催の研究会が1997年6月、ウガンダで開かれた。同研究所が進める、アフリカに焦点を絞った二つの研究プロジェクト「サハラ以南アフリカの非伝統的輸出の成長、外的提供セクターと役割」,「サハラ以南アフリカの外国為替・金融市場の自由化」の共同研究会として開かれたもので、多くの学術的研究成果と示唆に富む事例が紹介された。
とくに注目されたのが、香港、韓国、シンガポール、マレーシアなどの成功例をアフリカが見習うべきだという意見で、何人かの研究者から同じ提案が出された。これらの国々は、貧困脱出の方法として農産物の輸出も残しながら、徐々に製造業に進出する道を選んだ。どの国も現実的な為替レート設定、関税引き下げ、資金、原料、部品などの調達に対する減税措置など、輸出業者を優遇する政策、さらに港湾設備、通信機能などのインフラ整備も進め、労働集約型の製造業が輸出で利益を出せる条件を次々に整えていったのである。
しかし、現実に東南アジアモデルがアフリカに適しているのかとなると、意見は今でも分かれる。適しているというのは、米ノースイリノイ大学のジーン・クウォン教授。「経済成長に立ち遅れている国が貧困脱却を図るには、利用できる資源はなんでも利用するべきだ」というのがクウォン教授の基本的考え方だ。東南アジア経済が成功したのは、素早く技術を吸収し応用が可能な人的資源が存在していたことと、それらの国の政府が世界の動きに機敏に対応する安定した政権であったこと、この二つが既存条件として定着していたからで、アフリカがこの二つの条件を満たすことができれば、うまくいくと同教授は言う。
さらに東南アジア各国はいずれも、その国の産・官・学のすべてが参画する優れた開発計画を策定し、実施面で必要となる資金、物資、労働力などの量的データをあらかじめ正確に把握していたことを挙げて、「アフリカ各国は国内の貯蓄をいかに流通させるか、欠かすことのできない海外資本の導入の問題をどう解決するかを、まず決めなければならない」と指摘する。また、各国の輸出奨励策には輸入品の国産化計画を組み込む必要がある。いくつかの製品カテゴリーを調べて、ほかの国の輸出品リストに載っていないもので、これなら売れると確信できる商品を探し出すといい、とアドバイスする。
クウォン教授は続けて、アフリカ諸国が金融の自由化に踏み切るのは時期尚早の感があり、経済の離陸が確認できてからでも遅くはない、という。アフリカでの金融市場の規制緩和は望ましくないと指摘する人は他にもいる。WIDERのグユル・リプンバ主任研究員もその一人で、アフリカの外為市場は「一次産品市場の不安定な輸出売上げと確実な保障のない海外援助金だけに依存する、きわめて未熟なマーケット」であることを説明して、為替の浮動レート導入はいまのところあまり意味がないと断言する。むしろ、貿易、援助、債務返済すべてに適用できる、緩やかに変動するクローリングペッグ方式が、アフリカの大半の国に適したシステムだという。
WIDERのアンドレア・コーニア所長も、「アフリカ各国では小規模農家と零細な商工業者が国民総生産の80%を担っているが、彼らにとっては、ここでいう規制緩和はなんのメリットにもならない」として、アフリカの市場自由化といっても割り引いて考える必要があると指摘した。
それでもアフリカ各国が金融市場の自由化や金利の規制緩和に踏み切るというのであれば、次の三つの措置を実行に移すことが前提条件だと指摘する。まず最初に、金融システムの健全化に手を付ける必要がある。第二は、現在の金融市場になんらかの難点があるのであれば、早急にそれを是正する。そして三番目が、基本を踏まえた信頼できる司法制度の確立だ。
東南アジア諸国がまずまずの成績を上げているのは、ほとんどが各国の経済政策のもっていき方がうまいことが理由で、地理的条件とは無関係だ。アフリカの場合も、各国の政策の基本が、市場開放、健全な財政運営、そして法の厳正な適用という方向に向かうのであれば、それなりに着実な成果が生み出される、とする見方もある。
確かに正論だが、実行するとなるとむずかしい。ガーナ大学のクワドゥオ・トゥトゥは、「国に技能を育成する力がないことがアフリカ諸国の大きな弱点で、それがほとんどの国が工業化に失敗している理由」だと説明する。そのため軽工業製品の輸出が国の経済を支えるまでに育たず、結局のところ伝統セクターに頼らざるをえないというのが現状なのだ。また、アフリカ全体の輸出に占める工業製品の割合が1980年の27%から1990年には22%まで落ち込んでいる事実も指摘した。
これに対してトロント大学のジェラルド・ヘレイナー教授は、豊かな天然資源と技能労働者の極端な不足はアフリカの実像で、この二つを合わせ考えると、今後も工業製品輸出が大きく伸びる可能性はほとんどないとみる。「人材育成への投資は成果が出るまでが長い。アフリカが精いっぱいアクセルを踏んだとしても、自然資源と技能労働者のアンバランスが大きく変わるまでには少なくとも数十年はかかる。いまのところ、アフリカの比較優位が一次産業にあることは否定できない」
多くの開発問題の専門家は、労働集約型の製品を輸出することがアフリカの貧困脱却のための早道だというが、ヘレイナー教授はその考えに反対で、「経済成長を農業に依存する度合いが大きくなればなるほど、製造分野がそれ以上の成長率を達成する確率も高くなる」として、農業主導による発展こそが、アフリカ大陸が取るべき唯一の手段だという。さらに、チリやインドネシア、タイといった、輸出向け農産物の多様化を進めつつ、最終的には経済全体の多様化にも成功した国の例は、アフリカのよい手本になるはずだとも指摘した。
また、ウガンダの研究会に参加した学者の多くが、チリとコスタリカのたどった発展の過程をアフリカがなぞることが望ましいと感じたようだ。事実、両国で成功した輸出多様化策をそれぞれ詳しく紹介したチリのマヌエル・アゴシンとコスタリカのエンニオ・ロドリゲスの論文は活発な議論を呼ぶことになった。
アフリカ以外の国々の経験に、それも成功例も失敗例も含めて、多くを学ぶべきだ、これが今回の研究会でアフリカ出身の研究者たちが大いに関心を示した点だった。これこそが、遅れて来た国々が追いつくために利用できる大きなメリットだからだ。