1997年 11月     


第1回国際ワークショップ「地震とメガシティー」
地震に弱い大都市では市民の備えがまず必要

地震は巨額な経済的ロスをもたらす。その額も最近は急速に肥大化する傾向にある。とくに最近の大都市では、途上国、先進国を問わず、建物の高層化と機能の多様化が進み、道路、電気、水道など都市生活を支える基盤施設や国の経済の要となる貿易拠点の港湾施設や空港には、ばく大な資本が投下されている。このような都市をひとたび地震が襲えば、経済的打撃が恐るべきものとなる。震度が中程度の地震でも、もしそれが都市の広い範囲で起これば、経済的にも甚大な被害がでる。米国ロサンゼルスを襲った1994年の地震では、被害総額は250億ドルにも達した。

日本のように物価の高い国では、それはさらに大きな数字にふくれ上がる。例えば、1995年1月の阪神大震災がもたらした経済的被害は1,100億ドルといわれている。東京を壊滅させた1923年の関東大震災がここで再び起きた場合は、1兆ドルが灰になるといわれる。経済大国にとっても、無視できないロスといわざるをえない。

国連大学のほか、35の国際機関や援助機関が集まって「地震とメガシティー」と題した第1回の国際ワークショップが9月初め、ドイツのゼーハイムで開かれた。会議では、巨大都市の地震に対する万全の備えをどうするかの問題に加えて、経済的被害を最小限の抑えるための対策が話し合われた。世界中から130人の学者、技術者、都市計画専門家などが参加し、最終的には参加者らが国際的なネットワークを作って、そこから生まれる新しい考え方を各国の今後の都市計画に反映させていくことが決まった。

国連大学ではかねてから世界の災害危険地域を洗い出す作業をプロジェクトとして進めてきた。「脆弱性の地理的分布」と題したこのプロジェクトのコーディネーターを務める、カリフォルニア大学ロングビーチ校のベン・ウィスナー教授、同プロジェクトのヘルマン・ベラスケス国連大学プログラム助手、それにヨハネスブルグのコミュニティ・サービス専門家、ウェンディ・オーヴェンスの三人が国連大学を代表してこの会議に参加した。

地震対策が話し合われる場では、これまではとかく地盤や建物の強度など、地質学や建築学の視点に立つ考察が中心になりがちだったが、今回は、社会経済的視点からの地震被害研究の成果を持ち込んだ国連大学チームの参加で、ワークショップの内容の幅が大きく広がった。ウィスナー教授が司会した分科会でこの国連大学プロジェクトの成果が発表され、参加者のあいだに、地震の社会的インパクトがいかに大きいかについての理解を深めるのに役立った。

そもそも地震のあらゆる側面について考察するのがワークショップの狙いであったが、地震が社会経済に及ぼす被害について詳述したコロラド州立大学のハル・コーエン博士と国連大学のベラスケス博士の発表は、とくに大きな関心を呼んだ。

コーエン博士の研究は、地震の経済的被害の地域差に関するもので、米国や日本で地震が起きたときの経済的被害のインパクトと、それが途上国で起きたときのインパクトとでは比較の対象にならないことを示した。なかでも途上国の大都市で地震が起きた場合の影響は、先進国の場合とはちがって、国家経済全体が壊滅的打撃を受けることが、彼の研究で明らかになった。コーエン氏は「(途上国の場合)為替レートの暴落や内外資本の同時国外流出といった事態だけでなく、最悪の場合は国家経済崩壊の可能性すら否定できない」と指摘、常に地震のリスクを抱える、途上国の超過密人口の大都市のなかには、これから2020年までのどこかで、経済活動が完全にストップするといった、極端な事態に見舞われる都市が出てくる危険があると警告した。

ベラスケス博士は、フィリピンのマニラ市を例にとり、地震が起きた場合に予想される社会的機能の麻痺を、少しでも防ぐために市民にできる行動について調べた結果を発表した。そのすべてが、ほとんどの都市に当てはまるものだが、とくに留意すべきことは、市民一人ひとりが常に地震に備えておくことで、それによって経済的損害はかなり軽減できると彼は指摘した。もちろんそうした備えは、地震だけのためではなく、台風や洪水、火災といった、あらゆる災害時にも利用できる対策である。

ビルからの脱出路や、だれかがはぐれた場合の家族の集合地点などは、あらかじめ決めておくべきだし、救急箱、飲料水を入れた容器、懐中電灯、毛布なども、家族全員が承知していて、すぐ取り出せる場所に収納しておく必要がある。「緊急時のための備品は、反射的に無意識のうちに取り出せなければ意味がない」と彼はいう。

事業所や家庭での避難訓練や、学校の授業で災害時の心構えを教えておくことなどは、途上国も見習うべきだし、先進国が途上国に効果的な災害対策について指導することも必要だろうとベラスケス氏は指摘した。今回のワークショップを通じて参加者は、今後も異なる分野の専門家同士の対話を継続する必要を認め、研究の重複回避、必要資金の調達、国際協力の推進、インターネットによる情報普及という四つの個別の事項を担当する作業班を設けて、実施方法の検討に入ることになった。作業班はさらに、低コストの地震被害軽減策についても案を練ることになる。