1998年  3月     


早期警報システム開発への期待
   南米の暴れん坊:エルニーニョを研究

エルニーニョ現象は数年おきに世界の気候を大きく変動させている。スペイン語で男の子(イエス・キリストを指す)を意味するこの言葉は、もともとはクリスマスの時期に南米ペルーやエクアドルの沿岸を訪れる暖流の呼び名だった。しかし今では、この付近に2年から7年間隔でやって来る例外的に水温が高く、長命の海流を言うようになった。

コロラド州ボールダーの国立大気研究所の上級研究員、マイケル・グランツ博士は昨年11月12日に開かれた国連大学パブリック・フォーラム「有益な科学:エルニーニョ予測」で講演し、エルニーニョが地域的な気候だけでなく、世界の気象全体に大きな影響を及ぼしていることを指摘した。

グランツ博士によると、1982年頃まではだれもエルニーニョの危険性に気付かなかったという。しかし今では「ところによっては洪水や嵐が起き、反対に干ばつに苦しむ地域もある。エルニーニョの影響は破壊的だ」と博士は警告する。今世紀で最も強かったエルニーニョは1982年から83年の冬にピークに達したもので、世界全体で少なくとも120億ドルの損害を与えた。

この1982~83年のエルニーニョは世界の科学者の注目を集め、それから科学者たちはエルニーニョ現象によって引き起こされる異変の調査を始めた。博士の説明では、太平洋ではいつも東から西への貿易風が吹いている。この風が太平洋東側のペルーやチリ沿岸から暖かい表面水を西へ送り、その後に冷たい海水が海底から上昇する。通常の条件では、太平洋の西側のオーストラリア、フィリピン辺りに表面水が集められ、水温が東側より数度も高く、水面も1bほど高くなる。しかし、貿易風が弱いと逆に暖かい水が太平洋を東へと流れ出し、東側の冷水の上昇が止まってしまう。

「こうした動きは浴槽を傾けた場合に似ている。一方に水が片寄るため、浴槽をまっすぐに戻すと、水はどっと反対側に戻って行く」と博士は説明する。

最終的には、世界の他の地域の状況は変わらないのに、西太平洋とその気候システムが6000`も東に寄るようなものである。太平洋の暖かい気候が東に移動するため、雨域も東に移り、いつもならば多雨のインドネシア、フィリピン、オーストラリア北部が干ばつに見舞われる。逆にいつもは気温が低すぎて降雨が少ない南米の西側地域で、どっと大量の雨が降るのだ。

これは影響の手始めにすぎない。グランツ博士によると、もっと複雑な予想外の変化が起きるため、エルニーニョは世界全体の気象に影響を与える。アフリカの気候パターンに変化が起き、エルニーニョの間は中近東の冬が例外的な雨を迎える。しかしジンバブエやインドなどの地域では干ばつが起きる。カリブ海で発達する気候システムもハリケーンを起こすには至らない、などなど。

グランツ博士はフォーラムで、エルニーニョの予測ができるようになれば、そのいい影響を利用しながら、悪影響を緩和することに役立つだろうと言う。だが、エルニーニョを引き起こす原因については、まだ不明な部分が多いという。

国連大学は現在、エルニーニョのミステリーを解明するため、「エルニーニョと環太平洋諸国」と呼ばれるプロジェクトをスタートさせている。「われわれは人々にエルニーニョの影響をもっとよく知ってもらい、影響を避けるための対策を取ってほしいと考えている」と博士は言う。

この国連大学プロジェクトから、エルニーニョの早期警報システムが生まれることを博士は期待している。これが実現すれば大きな成果だが、どんな早期警報システムでも、将来に発生することをすべて確実に予測することはできない。エルニーニョから予測もしなかった変化が起きる可能性もある。それでも国連大学のプロジェクトは将来の対策を改善すると思われる。

関係する各国政府が求めているのは、エルニーニョが発生するかどうか、という予測だけではない。エルニーニョが社会全体に及ぼす影響について、信頼性の高い情報が必要なのだ。たとえば、エルニーニョがパプアニューギニアの乾燥地帯の住民にどんな影響を与えるかが分かれば、政府は飢餓を避けるための栽培穀物を選択することができ、一方雨が多くなると見られる地域の政府は、蚊の大量発生でマラリアが流行するのを防ぐため、予防接種に力を入れることもできる。エルニーニョが引き起こす台風、ハリケーンを防ぐことはできないが、飢餓やマラリアの流行は食い止められる。