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| | 1998年12月 |
福祉と経済の関係を明らかに――国連大学世界開発経済研究所のセン博士にノーベル賞
1998年度ノーベル経済学賞が10月14日、福祉の学術的考察に大きく貢献したとしてアマルティア・セン教授(ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ教授)(写真)に授与された。
セン教授は国連大学世界開発経済研究所(UNU/WIDER)の創設者の一人で、彼の研究は社会選択、福祉と貧困測定などの理論の確立や飢餓の根元的要因に関する研究などに大きく寄与している。
セン教授はUNU/WIDERの創設期に、多くの著名なエコノミストらとの共同作業で同研究所の活動を支え、さらに1985年から1991年まで数多くのUNU/WIDER研究プロジェクトを指導した。「食糧戦略」「途上国における社会保障のための公共活動」「生活の質と生活水準」「社会保障」「比較研究:インドの経験」「飢餓と貧困」「西ベンガル村落部における社会変容と公共政策」などがその一部である。
セン教授はUNU/WIDERの学術研究に貢献した5人目のノーベル賞受賞者である。1994年にジョン・C・ハルサニィ、1993年にロバート・ウィリアム・フォーゲルとダグラス・C・ノース、1987年にロバート・ソローの各氏がそれぞれノーベル経済学賞を受賞している。
UNU/WIDERでのセン教授の研究成果は以下の著作としてオックスフォード大学出版局から出版されている。
Hunger and Public Action, with Jean Dr斯e, 1989; The Political Economy of Hunger: Volume I - Entitlement and Well-Being, Volume II - Famine Prevention, Volume III - Endemic Hunger, with Jean Dr斯e, 1990-1991; Social Security in Developing Countries, with Ehtisham Ahmad, Jean Dr斯e and John Hills, 1991; The Quality of Life, with Martha Nussbaum, 1993; The Political Economy of Hunger: Selected Essays, with Jean Dr斯e and Athar Hussain, 1995; Indian Development: Selected Regional Perspectives, with Jean Dr斯e, 1995。これらの著作のほか、セン教授の研究報告書5点と研究課題調査レポート1点がUNU/WIDERから出版されている。
フィンランドで発行されているスウェーデン語の主要紙、フーブドスタードスブラーデッドのC・G・リンデン記者のレポート ---
ノーベル賞受賞者はニューヨークのホテルで眠っている時、スウェーデン科学アカデミーからの知らせで起こされた。「受賞できてとてもうれしい。でも、今朝5時に電話で起こされたときは、一瞬、家族のだれかが病気になったかと思った。ところが、思いがけないいい知らせだった」──受賞が発表された直後、セン教授に電話で知らせてきたスウェーデンの通信社、TTニューズに彼はこのように語った。
セン教授は、経済学賞受賞候補の選考で名前が上がっていることは知っていたものの、まさか自分が選ばれるとは思っていなかった。ニューヨーク・タイムズが、セン教授のノーベル賞受賞確定、という誤報を1995年に流したこともあった。「わたしを含めて何人もが、同じことを経験したが、結局、受賞にはつながらなかった」という。
セン教授は現在、ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジの教授だが、福祉に関する研究でノーベル賞を受けたことをとくに喜んでいる。「単に利潤をどう増やすか、成功した事業をどう管理するかといったこととは別の研究が、賞の対象に選ばれたことがよかった。福祉経済学では、富の分配や普通の人間の生き方を掘り下げて考察する。これは重要なテーマで、これまでこのテーマを専門に研究する者がいなかったことのほうが驚きだ」という。
彼自身、自分のこれまでの著作のなかでベストだと思うのは、1970年に出版され、この命題の最初の理論付けとなった「集団的選択と社会福祉」(Collective Choice and Social Welfare)だという。個人の選択と集団的合意との関係を扱うことによって、規範的問題の経済的分析に新たな展望を開くものだった。40年前のこの研究で、セン教授はいわゆる集団的合意につきもののペシミズムを払拭したのだ。
「彼は普通のエコノミストとは違う。むしろ哲学者なのだ」とUNU/WIDERのジョバンニ・アンドレア・コルニア所長は指摘する。同所長はいま、研究所恒例の年頭講演をセン教授に依頼するつもりだ。セン教授にとっては、経済モデルなどよりも、社会問題、福祉、貧困、所得配分、飢饉などのほうが、ずっと心に訴える問題なのだ。だがコルニア所長は、彼の理論的基盤はきわめて強固だと断言する。
セン教授が書いた本のなかで最もよく知られているのが、「貧困と飢餓」(Poverty and Famine、1981年)で、この中で彼は、飢饉は食糧の不足のみが原因とする見方に反論している。事実、国内に食糧があっても、その国の人間が餓死するような事態は起きるのだ。結論を急ぐより、いくつかの経済的、社会的要素を検討すべきだ、と同教授は言う。
セン教授は伝統的にマルクス主義が盛んなインドのベンガル地方の出身だが、彼自身はリベラルな社会民主主義を奉ずる人間だ。しかし、これまで富める国が途上国に「売りつけ」てきた開発モデルにはきわめて批判的だ。彼自身、社会開発へのインプットは人びとへの投資であり、それが経済的利益を生むと見る。
同教授は福祉に新しい経済指標を導入した最初のエコノミストの一人であり、また、国連開発計画(UNDP)に人材育成の指標の採択を促したグループのメンバーでもある。ほかの仕事と並行して、いま彼は、ある国の平均寿命がその国の開発の進展度を測る最適の尺度であることを示すための研究を、UNU/WIDERと共同で進めている。
セン教授はこの研究所に1985年から1992年まで所属し、その研究成果は一連の出版物として発表されている。そのひとつが、マーサ・ナスバウムとの共同著作として1992年に出版された「生活の質」(The Quality of Life)である。この本はUNU/WIDER出版物のベストセラーで、これまでに8,000部が売れている。同教授はUNU/WIDER設立に当初から関わってきた一人であり、開発経済を研究する、この国連大学独自の研究機関のヘルシンキ設置を強く推した人物でもある。
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