1998年12月    


国内紛争による難民の急増を救いたい――緒方高等弁務官、人権シンポジウムで訴える
10月23日の国連デーに当たって、シンポジウム「人権と国連の役割」が国連大学で開かれ、緒方貞子国連難民高等弁務官(写真)が基調講演を行った。この日のシンポジウムは国連大学の主催、国連関係6機関の協力、外務省、文部省、東京都、NHKなどの後援、佐藤栄作記念国連大学協賛財団、国連大学協力会の協賛で行われた。

緒方高等弁務官は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の活動や日本の難民政策について語り、聴衆の質問にも答えた。続いて英語によるパネル討議が行われ、イブラヒム・バドラン前ヨルダン首相人権問題顧問、ヨン・ビヨルネビー駐日ノルウェー大使、ウォルター・カンバ・ユネスコ人権チェアホルダー、ゲイリー・トローラーUNHCR日本・韓国地域代表、佐藤英夫国連大学学長上級顧問が参加、NHKの朝のニュースキャスター、道傳愛子さんの司会で人権をめぐる諸問題について討議した。なお、このシンポジウムはNHK衛星第一放送でBSフォーラム「人権と国連の役割・世界人権宣言50周年」として、2カ国語で12月5日に放送された。

人権問題は戦争や平和の時期で様相が異なる

緒方弁務官は、1951年に設立されたUNHCRの難民支援活動が、今年10月10日に50周年を迎えた世界人権宣言に近い長い歴史を持っていると述べ、同宣言とその後の多くの条約や文書は人権に関する規範を定めたが、その規範は宣言以前には議論されたことも、まして広く受け入れられたこともなかった、とその意義を強調した。

緒方弁務官によると、国連における人権擁護の活動は二つの流れに分けられる。一つは平和時の問題から発展したもの、もう一つは戦争時に発生するものである。

平和時の活動は普遍的な性格を持ち、従来は「国内的」な問題と見なされ、多国間の条約や協定の規制の対象にはなっていなかった。しかし、欧州全域でのナチによるユダヤ人その他の虐殺事件によって問題が表面化した。

戦争中の人権問題は多くが国際的な次元のものであるため、様相が異なり、捕虜や非戦闘員などの保護の問題が当然取り上げられる。しかし、緒方弁務官は最近の武力紛争は国内、民族間の対立から生じることが多いことを指摘、ルワンダ、旧ユーゴスラビア、ユーゴスラビアのコソボ自治州などをその例に挙げた。

「流民」が「難民」より多くなった

こうした情勢の下で、UNHCRは「どのような人々を保護すべきか」という問題に直面することになった。

1950年の国連難民問題条約は、国境を越えてきた難民を保護することを規定している。しかしUNHCRは現在、2,300万人の国内「流民」を保護しており、難民全体における流民の比率は高くなる一方である。

「われわれは彼らを種類が違うと区別するべきではない」と緒方弁務官は強調する。国内の流民も国際的な難民も困難な環境に置かれていることは変わりがないからだ。

最近では別の問題も出てきた。たとえばルワンダでは、戦争犯罪人や武装グループを難民と区別することが難しくなっている。これまで200万人のルワンダ人が国外に亡命したが、彼らの中には国内紛争で敗れた武装勢力の兵士が混じっており、それらが一般人に脱出を強制した面もある。

緒方弁務官が述べたように、兵士の武装解除を行うのは非武装の援助ワーカーの権限の範囲ではない。特に国連事務総長が50カ国に援助を要請し、それに答えたのはわずか1カ国であったというような状況の下では。

新しいニーズ、新しい戦術

緒方弁務官はこのような急増する支援の必要性に対処するための、いくつかの戦略を挙げた。難民の困窮はただ戦闘が終っただけでは解決できない。難民は元の居住地に帰るまで、普通の生活に戻れないからである。

武力紛争が進行している間は、UNHCRに対する財政的支援が得られやすい。しかし、難民が人々の信頼が失われた、荒廃した居住地に帰り、または難民の亡命が認められ、新たな生活基盤が確立するまでは、難民は新たな社会を築くことができない、と緒方弁務官は説く。

緒方氏はコソボで出会った悲惨な事態について聴衆に訴えた。同弁務官はそこで4万人から5万人の難民に会ったが、そのうち6分の1は冬が近づいている中で、屋外で暮らしていた。彼らは緒方氏が現地を離れるのを阻止しようとさえした。「あなたが居てくれる限り、われわれは安全だからだ」と彼らは言った。危険にさらされる恐怖以上に、屋根の下にも入れないという苦しい状況にあるのだ。

「同情疲労」が援助を減らす

アフリカの50カ国の優に3分の1は現在、武力紛争に苦しんでいる。各国の悲惨な状況は新しい技術によってすぐに国際社会に伝えられるが、あまりにもこうした事件が多いため、世界的に無関心が広がる傾向にあると、緒方弁務官は指摘する。

UNHCRは現在、資金の97%までを国連加盟国からの善意の拠出金でまかなっている。従って、財政面では非常に不安定な状況にある。

さらに、一部の国は資金は出すものの、再定住のための亡命を難民に認めようとしない。これはぜひ必要なことなのだが、難民の受入れ場所を見つけるのは常に容易なことではない、と緒方弁務官は語っていた。