「21世紀における日本の世界的役割」

コフィー・アナン国連事務総長

国連大学での演説(原稿) 「21世紀における日本の世界的役割」

東京、1999年11月11日

皆様  

ここ国連大学で皆様とお会いできたことを、大変嬉しく思います。私が事務総長として国連大学を 訪れるのは、これが3度目となります。しかし、もちろん、国連大学のプレゼンスを感じるためには、 東京にまで足を運ぶ必要などありません。皆様の活動は伝わっているからです。国連大学の重要 な研究書を片手に、武力紛争と人道的緊急事態の原因、および、開発と平和との連関につき、私が 世界銀行で長い講話を行ったのは、ほんの先月のことです。  

この研究書は、国連システムのシンクタンクとして、その重要な役割の一つを果たしている国連大 学の姿を、もっともよく映し出しています。私はまた、皆様が若者たちに手を差し伸べることをどれだ け重視しているかを知り、嬉しく思っています。私は、平和と安全、開発、統治、環境およびその他 の地球的問題に関する皆様の努力が、国連の同僚たち、そして、世界中の政策立案者たちに、21 世紀を迎えるに当たっての貴重な思考材料を提供していることを断言できます。  

文化によっては、新しい千年紀の訪れは、暦の上での出来事に過ぎないかもしれません。しかし、 この出来事は私たちすべてに対し、今世紀の成功と失敗について考える絶好の機会を与えてくれる のです。  

2ヵ月ほど前、ここ国連大学で、アジア太平洋地域の人々は、来年のミレニアム・サミットおよび総 会に至る過程の一環として、より安全で希望に満ちた未来に向けたビジョンを提示する機会を得まし た。  

この会合、そして、最近の数ヵ月間に行われたその他の同様の会合のおいて、数々のテーマや提 案が明らかにされました。しかし、一つ明らかなことは、人類の歴史の新たな一章が始まろうとする 中で、私たちは重要な選択をいくつか行わなければならないということです。  

例えば、私たちは「いつも通りのやり方」、すなわち環境を悪化させ続けることと、2年前に京都で 合意された気候変動対策を進めることのどちらかを選択しなければなりません。  

また私たちは国家間および国内のあからさまな不公平を見て見ぬふりをするか、より公正な地球 経済の創設に向けて一致団結した努力を行うかを選択しなければなりません。  

さらに、人道的な緊急事態に直面し、私たちは間に合わせの措置でよしとするか、政治、経済、さ らには文化の領域にさえ属する根本的原因に対処するかのどちらかを選択しなければならないので す。  

日本もまた、一つの分岐点にさしかかっていると言えます。今後数年間の日本国民による選択 は、その地球的・地域的な役割に関するものであれ、安全保障政策に関するものであれ、国連にお けるプレゼンスに関するものであれ、世界中の人々に影響を与えることになるでしょう。  

幅広い国際問題の全般にわたって、日本よりも多くを行う国を想像することは困難です。日本が世 界的な経済大国の一つであることは議論の余地がなく、その実績は依然として、東アジア全体の経 済回復に重要な鍵を握っています。日本はまた、開発途上地域における有数の投資国となっていま す。  

日本は引き続き、世界で最大の政府開発援助プログラムを有し、その支援は160カ国、そう、実に 160カ国にも及んでいるのです。  

また、日本が国連の通常予算に対する第2位の拠出国であることは、改めて申し上げる必要もな いでしょう。事実、日本は現在のところ、実際の拠出額では第1位となっているのです。  

さらに、日本の寛大な自発的拠出は、コソボと東ティモールにおける国連活動の足場を固めること に貢献しています。  

しかし、日本の貢献は決して資金面に限られたものではありません。日本はマルティラテラリズム に強力なコミットメントを行っており、国連をその外交政策の中心的な柱に据えています。  

日本は特に、アフリカ開発に関する画期的な会合を2度にわたって開催し、極めて実りあるアフリ カ・アジア対話の原動力となりました。  

日本は開発途上地域との技術的ノウハウの共有を熱心に進めています。日本は国際刑事裁判所 の設置を強く支持しています。日本は民主化と債務救済を促進しています。そしてもちろん、日本は 核不拡散と地球的軍縮を声高に主張しています。  

日本はこの活動をすべて、もっとも幅広い意味で人間の安全を確保する統一的・総合的努力の一 環と捉えていますが、これは正しいことといえます。  

「安全保障」という語が軍事的な考え方を示唆するのではないかと危惧する向きがあることは、私 も承知しています。しかし、私の友人でもある日本の佐藤行雄・国連大使もおっしゃっているとおり、

「言葉の定義よりも重要なのは、人間の生命と尊厳を危険にさらしている問題に対し、国際的な注 意を喚起することである」といえます。しかも、平和と同じく、安全保障は勝ち取り、保護し、そして防 衛しなければならないものなのです。  

小渕首相ご自身も、この考えに並々ならぬコミットメントを示し、人間安全保障基金を設立されまし た。もしも「人間安全保障理事会」なるものが存在したとすれば、日本は間違いなく、その常任理事 国となったことでしょう。  

これらあらゆる理由により、国際社会では、日本が改革後の国連安全保障理事会で価値ある常 任理事国になるだろうとする見方が広がっています。  

私は、日本の政策立案者と一般国民が同様に、安保理改革の見通しについて苛立ちを募らせて いることを承知しています。特に、国連の将来全般にとってこれが死活的に重要な問題であることを 考えれば、実際のところ、話合いの進展はあまりにも遅いと言えます。  

安保理は1945年の現実を反映しているため、より代表的、民主的かつ効果的な機関へと変革す べきだということについては、誰もが同意すると思います。このような改革を行うに当たっては、国際 政治で日本が演じている指導的な役割を含め、今日の現実を考慮しなければならないでしょう。  

これはもちろん、加盟国が決定すべき事柄であり、私は遅滞なく、この問題が検討されることを望 んでいます。  

日本には、その政府開発援助あるいは国連への自発的拠出金を削減するなど、同国の経済力を てことして利用することを望む向きがあることを、私は承知しています。  

私はこれが非生産的であり、日本国民の寛容な心はもとより、日本の世界における高い地位を汚 すものであると考えます。私としては、いま少しの辛抱をお願いしたいと思います。  

私はまた、日本に対し、安全保障理事会の主要任務である平和創造、平和維持および平和建設 活動など、国連の政治的活動に対する一層の貢献を促したいと思います。日本がその地球的な経 済力に見合った政治的な役割を担うことを、世界は必要としているのです。  

日本が今もなお、国際政治の舞台で見えない存在だというつもりはありません。現実はむしろその 逆です。  

日本人は多くの国で、選挙監視員を務めました。日本の警察はルワンダでのジェノサイドの直後、 国連の難民機関に不可欠な支援を提供しました。  

日本人の要員はアンゴラ、カンボジア、モザンビーク、タジキスタンおよびゴラン高原の平和維持 活動に参加しました。日本は中東の和平プロセスに関与しています。日本はまた、安全保障理事会 の非常任理事国も務めています。  

それでも、日本には独力で、そして国連を通じて、より多くの貢献を行う余地が残されています。  

日本には、ある種の国際的な関与に関する意思決定に影響を与える憲法上の規定や歴史的経緯 があることを、私は承知しています。  

私はそれでも、日本が平和維持により広く参加できると思いたいのです。東ティモールにおける日 本の積極的な役割は、これに向けた重要な一歩です。寛大な資源の提供と、西ティモールの難民 に食糧と医療物資を空輸するという決定により、日本は新たな重大な決意を示したのです。  

しかし、国連の政治的活動には、兵員力とその展開と並んで、知的な発明力が絡むことが多くな っています。私たちが軍事行動の検討を始めるとき、それは多くの点で、外交的失敗の兆候といえ ます。  

日本の方々もよくお分かりのこととは思いますが、外交はしかしながら、決して紛争を防止する唯 一の手段ではなく、そのもっとも効果的な手段でもありません。それ以上に大切なのは、健全でバラ ンスの取れた開発を図る政策なのです。  

民主主義もまた、鍵を握る要素となりますが、そのためには、少数派に多数派のなすがままにな るという感覚を抱かせることなく、コミュニティーのあらゆる集団が発言権を持っていると感じられるよ う、正しい方法での導入を図ることが条件となります。日本はその影響力をより一層行使し、国内で 遵守されているものと同じ民主的原則を促進することができると私は考えます。  

私はまた、日本とその近隣諸国に対し、地域の平和と安全の問題について、多角的なアプローチ の利用を拡大するよう促したいと思います。世界のその他の地域では、コンセンサスの醸成、共同 行為および機関の共有が、負担を分担し、共通の価値観を醸成し、経済あるいは政治情勢が険悪 化した際に問題を処理する効果的な方法であることが明らかになっています。  

最後になりましたが、私は日本の男性と女性、特に若者たちに対し、政治的活動に限らず、国連 の関心分野の全体について、そのアイデアとエネルギーをお貸しくださるようお願いしたいと思いま す。

 私は、国連職員に自国民が十分に代表されていないことについて、日本政府が苛立ちを感じてい ることを承知しています。私たちは事実、この問題についても進展を遂げつつあるところです。しか し、これを一層推し進めるためには、候補者が必要です。それは、国連憲章の理想を共有し、その 職務で最善の力を発揮し、国際公務員という職業を選択する意思をお持ちになっている日本の男性 と女性のことです。

皆様、  

81年前の今日、11月11日の11時に、ヨーロッパ中の銃声は鳴り止みました。いわゆる「すべての 戦争を終わらせるための戦争」が終わったのです。しかし、それ以来、暴力は貧困や不寛容と同 様、私たちの世界に恐ろしい犠牲をもたらし続けています。しかし、今世紀においては、人間の状況 に進歩の兆候を垣間見ることもできました。年を追う毎に、そして、世代を追う毎に、私たちは着実に前進を遂げているのです。  

日本は国連に対し、莫大な資源と、この努力に対する大きな決意とをもたらしました。私は、多角的なビジョンをこれほど強く支持していただいている日本の方々に対し、敬意を表したいと思います。このビジョンは、20世紀が私たちに与えた良いものの一つです。これを現実のものとすることが、21世紀の重要な課題となりましょう。世界の人々は、地球的な指導者である日本と、まさに地球的な機関である国連とのパートナーシップから、多くを期待しています。この期待を裏切らないようにしようではありませんか。ご静聴ありがとうございました。

PR-J24に戻る