渋谷区にある国連大学は唯一日本に本部を置く国連機関。一九六九年、国連総会でウ・タント事務総長(当時)が創設を提唱、日本政府が東京誘致を国連に呼びかけ、七十五年に開設。世界各地に十三の研究・研修機関を持ち各国の大学、研究機関とも学術ネットワークを展開し、開発、世界平和、環境など人類の抱える緊急課題について研究を行っている。今年九月で二十五周年。
国連事務次長で、国連大学学長のハンス・ファン・ヒンケルさん(六〇)は「この二十五年間、国連の機能を高めるための戦略的頭脳(シンクタンク)として、ソ連・東欧共産圏崩壊による国際社会の変革、飢餓、地球温暖化など地球規模の多様な問題に関して研究を重ねてきた」と大学の四半世紀を振り返る。
最近、特に顕著なのは、世界各地で多発する「国内紛争」の要因と予防のための政策研究。平和を維持するためのガバナンス(地球社会の運営)をいかに構築させるか。
「ルワンダ、ブルンジ、コソボ紛争で、いずれも国連に求められたのは紛争を予測するメカニズムの構築であると言われた。しかし問題は『予測』でなく『行動』。人権擁護の緊急性が高い事態に陥った場合、国内干渉することなく、人道的介入をいかに迅速に効力のあるものにするか。国連は今後戦略的考えを示していかなくてはならない」
大学が国内紛争に関する研究を重要課題に挙げる背景には、ルワンダやコソボ紛争での安保理決議に基づいた国連の国際社会における求心力の低下による“自戒”がある。
「ルワンダでは、同国での国連平和維持活動(PKO)の大幅削減を安保理が決議、その間に大虐殺が行われた。コソボでは、理事国のロシアと中国が拒否権を発動、ユーゴ空爆がEU首脳会議の決定に沿ってNATOが行った。結果として国連はルワンダで何もしなかったと非難された。二度とこのような事態を招かないために、国連改革を実施するとともに、それを機能させるための学術的見地からのサポートが不可欠」と大学の重要性を説く。
また、大学研究は市場の自由化やIT革命で途上国の貧困を解消できるとする経済理論「ワシントン・コンセンサス」の盲点にも光をあてた。
「多くのエコノミストが市場自由化やIT革命で途上国が先進国なみに成長すれば、公平に富が分配され所得配分が安定すると説いてきたが、国連大学の研究所が、世界の所得格差調査を実施、自由化が進む一方で格差が八〇年代以降に各国で拡大していることを初めて明確にした」
国連改革論議の中、大学の変革は東京(本部)のかじ取りにかかっている。
「東京では、世界に設置された大学の研究機関の企画や運営を主に行う。国際社会が抱える問題解決のため、いかに優れた研究研修プログラムを作成、研究成果に結びつけるか、本部の頭脳にかかっている」
学術機関以外に、企業やNGOとの連携を充実させ、東京を国連のシンクタンクの発信基地として、発展させたいとヒンケル学長は願っている。(末永恵)
コフィ・アナン事務総長は一九九九年度年次報告で「国連大学の研究は、世界の国内紛争の決定的な要因は貧困でなく、国内の人種間の不均衡にあり、それが平等な政治参加を阻害し、平和的解決を困難にさせていることを明確にした」と国連と加盟国が抱える地球的規模の問題についての同大の研究成果に言及した。