平和とガバナンス

 1980年代末から1990年代始めにかけて、国際社会は危機や紛争に対して積極的な行動を展開した。こうした取り組みは成功を収めた場合も・nbsp;るが、失敗に終わった事例の方が多い。失敗の原因は、国際社会が持つ問題解決の手段がうまく機能せず、超大国などからの積極的な支持が得られなかったことに・nbsp;る。1990年代の半ばには、国際政治は極端なほど慎重な姿勢に引きこもった。

 国連大学の「平和とガバナンス」プログラムは、過去における事象を研究し、現在の事態を概念化し、将来のための計画を立案する、という三つの重点的作業を推進している。具体的には次の三つのプログラムが展開されている。

安全保障研究

国連大学の安全保障研究プログラムは、国際的な力の均衡に生じている重要な変化を検討している。またこれらの変化が国際的安全保障問題に関係する制度、機関にどのような意味を持つかを研究している。研究活動は国連大学本部学術部門とヘルシンキのUNU/WIDERで行われている。


ガバナンス研究

ガバナンス研究プログラムは規範や価値観の変化が民主主義に及ぼす影響を、民主主義と人・nbsp;の相関を中心として、研究している。国連大学本部学術部門とスペインの国連大学ガバナンス・プログラムが研究の活動を担当している。


リーダーシップ研修

ヨルダンに置かれている国連大学リーダーシップ・アカデミーは、21世紀における外交上の課題を研究し、そのために国際的外交官、経営者、公務員にどのような研修が必要かを研究している。


プログラムの改善

 1997年には「平和とガバナンス」プログラムの改善に多くの努力が傾注され、プログラム構成は次のように改められた。

安全保障研究

 「平和の基盤プロジェクト」では、将来の国際的な平和維持活動に向けた政策上の勧告やガイドラインを提示している。このプロジェクトに携わる研究者は、開発、人道および人・nbsp;分野における国家の活動が、いくつかの地域における和平交渉に与えた影響を研究している。プロジェクトは英国のキングズ・カレッジの研究者に委嘱されている。リベリアおよび旧ソ連の平和関連問題の研究も1997年中に進められた。

 国連大学プロジェクト「21世紀の国連システム(UN21プロジェクト)」の改革も進められている。

 このプロジェクトの目的は、国際機関の役割を分析し、21世紀における国連の最善のモデルを追求することで、国家、非政府組織、市場勢力、地域機関、および国際機関という五つの研究グループに分かれている。これらのグループは毎年、特定のテーマについて研究を行うが、1997年のテーマは環境で・nbsp;った。『国際的安全保障管理と国連』が国連大学出版局から刊行される予定。

 冷戦の終結後、途上国での社会的紛争や内戦が増え、深刻化している。現代の世界でこうした内戦ほど、多くの人々を苦しめているものはない。UNU/WIDERのプロジェクト「最近10年間の緊急事態の波」は、このような人道的な危機の経済的、政治的ルーツを幅広く分析した初めての試みで・nbsp;る。この分析の結果、プロジェクトはこうした破滅的な危機を防止するのに役立つ、初期的な経済的、政治的な措置を発見している。この研究は一般的な経済、政治の分析に加えて、アフガニスタン、ボスニア、ブルンジ、ルワンダのケーススタディを行っている。

 このプロジェクトは、緊急事態の性質や原因の概要を理解し、各種の紛争の詳細なケーススタディを行い、多様な予防措置を考え出すという三つのテーマから構成されている。UNU/WIDERはすでにプロジェクトの成果の一部を刊行している。
 

ガバナンス研究

 国連大学のプロジェクト「変わりゆく民主主義の性格」では、民主主義の多様な形態を研究している。また、民主化の過程を再評価し、民主主義がどのように平和、人・nbsp;および開発を促進できるかを検討している。1997年に『変わりゆく民主主義の性格』の草稿の編集が終わり、1998年国連大学出版局から刊行される予定。プロジェクトは1997年にマレーシアのクアラルンプールとハンガリーのブダペストの2ヵ所で地域ワークショップを実施した。その成果で・nbsp;る『東南アジアの民主主義』と『東ヨーロッパの民主主義』の2冊の本は1998年中に刊行される。

 バルセロナに本拠を置く国連大学のガバナンス・プログラムは、経済的変化が社会制度に及ぼす影響の研究を、特にラテンアメリカと地中海地域を中心に継続した。1997年中にプログラムは数回のワークショップを開催し、論文の提出や刊行を通じて、ラテンアメリカの学者や政治家との対話に大きな役割を果たした。

 UNU/IASのプロジェクト「環境と多国間外交」は各国の集団的責任の観点から、持続可能な開発の問題に取り組んでいる。当面の課題は国際的フォーラムの動きと、多国間環境交渉に参加する各種の主体の役割の検討で・nbsp;った。プロジェクトの目的は開発や持続可能性の問題についての科学的な研究成果を、多国間交渉に加わっている政治家に伝達することに・nbsp;る。

 このプロジェクトは1997年に2回のワークショップを開いた。1回目は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と政治の関係について東京で、2回目はメルコスル諸国における貿易と環境について、ブラジルで開かれた。ブラジルでのワークショップの成果が報告書にまとめられ、1998年に刊行される。
 

リーダーシップ研修

 UNU/ILAは6月に初めてのリーダーシップ・プログラムを開始した。32日間にわたるプログラムでは、63ヵ国からの163人の指導者候補生がヨルダンに集まり、リーダーシップに関する研修を受けた。プログラムに加わった未来のリーダーたちは毎日平均して3回の講義を各国政府、企業等のトップを含む専門家から受けた。イスラエル、パレスチナ、エジプトへの6日間の実地研修旅行も行われた。

 UNU/ILAはまた、1997年に2回のリーダーシップ関連のイベントを単独、または共催で実施した。一つは11月のメリーランド大学の「グローバル・リーダーシップ週間」の催しで、もう一つは11月に北アイルランドで開かれた「紛争解決・民族問題国際プログラム」(INCORE)による「仲裁と紛争解決に関する国際会議」で・nbsp;る。
 

パブリック・フォーラム

 「平和とガバナンス」プログラムでは、1997年にニューヨークで2回のパブリック・フォーラムを開催した。第1回は「21世紀の国連システム:平和と安全保障」で1月に、第2回は「グローバル市場制度への移行経済の再統合」で3月に開催された。

 同プログラムはまたニューヨーク以外の都市でも3回のフォーラムを開いた。一つは3月に国連大学本部で開かれた「欧州とASEAN統合」で、同名の報告書が出版された。また国連大学パネル「国際連合と米国:新しい関係に向かって」は8月にソウルで行われた。このパネルに提出された論文は1998年に刊行される予定。国連大学パブリック・フォーラム「香港特別行政区基本法と香港の国際的舞台への統合がもたらす結果」は9月に国連大学本部で開催された。
 
 

 
『21世紀の中国:政治、経済、社会』

 中国は新しく、より強いナショナリズムの意識を創り出す経験を、早い時期に通過する必要が・nbsp;る。それはすべての中国人による開かれた対話が進んだ場合にのみ、可能になるだろう。そしてもし民主主義が機能していなければ、こうしたプロセスは成功するはずがない。従って、近代的な中国のナショナリズム意識を育てるには、並行してなんらかの形の民主主義が育って行く必要が・nbsp;る。
 実際に、中国で民主主義の発展を阻んでいる障害は、真の中国ナショナリズム意識の実現に対しても、大きな障害となっている。中国の指導層は時おり、この問題を認識しているように見えることが・nbsp;る。彼らも道徳の荒廃やより健全な文明化の意識の必要性を認めているからだ。しかし指導層はつねに、社会の開放を進め、国民が新しい国家的なアイデンティティの精神を見出せるような措置を避けてきた。だが中国の魂を取り戻す試みをいつまでも先延ばしにすることはできない。すでに社会には懐疑的な傾向が広がり、冷笑的な姿勢が目立ち、それはやがて孤立やニヒリズムに至る危険が・nbsp;るからだ。ニヒリズムの否定的な精神が、建設的な価値観や強いナショナリズムの意識に不可欠な理想を生み出すことは決してない。
 中国が今後、大国になって行くためには、なんらかの形の民主主義に移行していかなければならない。幸いなことに、中国は過去40年の間にひどい混乱を体験したため、指導層も一般国民も・nbsp;威主義にはすっかり愛想をつかしている。したがって民主主義が発展する時は、そう遠い将来ではないかもしれない。

『21世紀の中国:政治、経済、社会』
伊藤文雄編、国連大学出版局、1997年





1997 Annual Report