開発
グローバリゼーションと自由化の進展の一方で、これに対立する形の地域主義と保護主義が、各国の経済社会の発展に大きな影響を及ぼしている。国連大学の研究はこうした傾向とともに、開発の経済的、環境的、人間的側面に新たな光を当てることに努めている。その事業は次の五つのプログラムに分かれている。
■ グローバリゼーション、自由化、開発
グローバリゼーションと自由化は途上国と先進国の双方に大きな影響を及ぼしている。ヘルシンキの国連大学世界開発経済研究所(UNU/WIDER)を中心とするこのプログラムは、このような流れがもたらす機会、影響について分析している。
■ 分配、開発、移行経済
このプログラムでは、開発途上国や旧社会主義国の学界や政策立案者を対象とし、途上国の経済において公共財を供給するための新たなモデルや、土地分配や土地改革の影響を検討している。このプログラムもUNU/WIDERが主管している。
■ 工業化と産業競争力における技術政策の役割
このプログラムは、工業化における技術の重要性とそれが一国の経済の競争力に与える影響を検討している。主管はマーストリヒトの国連大学新技術研究所(UNU/INTECH)である。
■ 技術革新と経済的・社会的疎外
このプログラムは技術革新が所得の分配に対して及ぼす影響を検討しており、特に経済的、社会的疎外の領域に重点を置いている。UNU/INTECHの主管。
■ メガシティーと都市開発
このプログラムではメガシティー(巨大都市)が直面する重要な課題、特に人口動態の動向、経済発展や社会的変容の原因と結果、および都心部における生活の質の向上に必要な管理などを重点的に研究している。国連大学高等研究所(UNU/IAS)が活動を推進している。
グローバリゼーション、自由化、開発
UNU/WIDERプロジェクト「短期的資本移動と国際収支危機」は、短期的な資金移動規制という問題の多いテーマを検討している。資金の短期的な移動は各国の為替レートや金利の変動を加速し、経済を混乱に陥れることがある。メキシコやタイの経済危機はその典型である。
このプロジェクトの最初の研究普及セミナーは8月に、クアラルンプールのSEACEN研修センターで実施された。これはタイの通貨バーツが変動制に移行し、東南アジア諸国の為替レートが下落した時期に当たり、タイムリーな企画となった。セミナーではインドネシア、韓国、マレーシア、ネパール、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイなどからの参加者が、資本が各国に流入したために直面した選択やジレンマについて、熱心に討議を重ねた。各国の中央銀行は複雑なマクロ経済を監視し、監督する必要があるというのが、セミナーの結論だった。
UNU/WIDERはこの研究の成果として『短期的資本移動と国際収支危機』と題する本を出版した。最近の東南アジアの危機についても分析され、金融の自由化についての政策上の誤りが危機を生み、それが他の諸国に広がったことが指摘されている。また各国が金融のグローバル化の悪影響を避けるために取るべき措置も提案されている。この本の研究のいくつかはUNU/WIDERのResearch for Action(行動のための研究)シリーズでも発表されている。このプロジェクトには世界銀行、IMF、各国の中央銀行、大学などの専門家が協力している。
国連大学本部は開発指向のプロジェクト「グローバル経済の中のアジア・アフリカ」を1997年に開始した。その主要な目標はサハラ以南アフリカの各国政府に、世界経済との関係を深める方法について、勧告を提供することにある。これらの勧告の作成には東南アジア諸国の経験も役立っている。
このプロジェクトの研究者は1997年11月、アフリカ経済研究コンソーシアム(AERC)と協力、「アフリカと東アジアの開発経験の比較」会議を南アフリカで開き、アジア、アフリカの研究者の大規模で高レベルの討議が見られたほか、東アジアやサハラ以南アフリカの発展についての20編の研究報告が提出された。国連大学はプロジェクトの実施のために国連開発計画(UNDP)から95,000ドルの資金拠出を受けた。
分配、開発、移行経済
UNU/WIDERのプロジェクト「経済理論と移行戦略」は、東欧、旧ソ連、中国、モンゴル、ベトナムなどでの各種の移行モデルを比較している。このプロジェクトは、ショック療法と段階的改革といった移行戦略、および移行の結果に重点を置いている。研究者は旧社会主義国家群にどのような市場のステレオタイプ(所得配分、国家の役割、産業構造、国際貿易の専門化など)が現れているか、さらに将来にどのような発展パターンが支配的になるかを検討している。
このプロジェクトの成果は『移行戦略:代替策と結果』にまとめられ、1998年出版される予定。結果の一部はすでにUNU/WIDERのResearch for Actionシリーズおよび研究論文として発表されている。
UNU/WIDERの別のプロジェクト「急速な貧困化の経済的ショック、社会的ストレスと人口動態への影響」は、突然の経済的なショックを受け、社会不安が高まっている諸国で見受けられる、最近の死亡率の上昇の背後的な原因を追求している。最近の人口危機について信頼できる分析や解明が行われていないため、適切な政策上の措置が取られていないのが現状である。このため、プロジェクトでは「心理的ストレス」や「経済的ストレス」の概念を検証し、それによって学際的なアプローチと基準となる国のケーススタディを使った死亡率モデルを確定し、テストしようと試みている。その結果、社会心理的なストレス(家族の不安定や破綻、雇用不安、失業、急激な貧困化、高いインフレ、移民などの結果として)が、死亡率の上昇の主な原因になっていることが判明している。
このプロジェクトの研究結果は1998年に出版される。2編の研究報告がすでにUNU/WIDERのResearch for Actionシリーズに発表され、また3編の研究報告が1997年中に発表された。
土地は農業経済にとって最も重要な資産である。しかし途上国の土地の多くは、貧困な農民にとって手が届かず、その利用度は低く、持続可能な方法で利用されてもいない。農村の貧困層にとって土地を手に入れることは、貧困から脱出するのに必要な手段の一つである。
UNU/WIDERが実施中のプロジェクト「土地分配、土地改革、経済成長」は、貧困な農民が土地を手に入れるためのケーススタディを進めている。これはFAO、世界銀行、国際食糧政策研究所、海外開発研究所、および米国、欧州、アジアの7大学の開発専門家の協力作業である。プロジェクトの参加研究者は1998年に開かれる会議で成果を発表、出版も予定している。
『ソ連崩壊後のロシアの新しい起業家たち』ソ連崩壊後のロシア起業家たちの特色は、彼らが事業のチャンス以上に、手に入る資源をうまく利用して成功していることである。ロシアで成功している起業家はみな重要な社会的資源を持っており、成功、失敗の分かれ目は、起業家が手に入れる各種の社会的資源の量、種類、組み合わせによって決まる。ゼロからスタートして、起業家としての能力だけで金融業、商業、製造業などの帝国を築くという起業家の一般的なイメージは、ロシアでは神話にすぎない。共産主義崩壊後の起業家のほとんどはかつて、または現在、高い価値の社会的資源を持ち、それを起業行動のために取り入れた人間である。
UNU/IAS研究論文No.28からの抜粋
B・バトジャルガル工業化と産業競争力における技術政策の役割
UNU/INTECHのプロジェクト「途上国の外国直接投資、技術移転、輸出指向:決定要因の経験主義的研究」では、途上国が日米の多国籍企業から技術集約的な事業や輸出および研究開発のための投資先として、魅力を高める方法について詳細な分析を行っている。
またこのプロジェクトの一部として、データベース「グローバルな技術と経済開発(GLOB-TED)」が開発され、74ヵ国の技術・経済開発に関する指標データを始め、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、米商務省および日本の通産省などが持つ外国直接投資、株式および経済活動に関するデータが収録されている。
このプロジェクトの研究者は1997年に、数編の学術論文、研究報告などを発表した。3冊の出版物の一つ『技術、市場構造、国際化』は10月に発刊され、『グローバル化、外国直接投資、技術移転:途上国への影響とその展望』は検討中で、『途上国への外国直接投資流入の品質改善:工業化、輸出拡大、技術革新における多国籍企業の役割』はまだ原稿の段階である。
UNU/INTECHは1997年に新しいプロジェクト「企業の投資・技術に関する決定」を開始した。南欧の製造業が欧州単一市場の中で、持続的で競争力を持つ成長へ「移行」するためには、技術的変化を取り入れなければならない。そのために必要な民間投資をどのように決定したらいいのか。その解明がプロジェクトの目的である。この分析的なアプローチを通じて、失敗を克服する政策のための提案を作成することができる。プロジェクトの成果は二つの形で提出される。一つは銀行融資を行う際の評価方法として、効果的な投資の基準となる指標を作成し、さらに将来における高度な政策構想についての勧告を提出することである。もう一つは南欧における技術革新と企業金融についての一連の研究を発表することである。
第1回のプロジェクト・ワークショップが7月にUNU/INTECHで開かれ、プロジェクトが今後予定する分析的アプローチと方法論を検討し、五つの研究チームの詳細な作業スケジュールを作り上げた。
技術革新と経済的・社会的疎外
UNU/INTECHのプロジェクト「テレワーキング:途上国の雇用と貿易に対する意義−マレーシアとインドの場合」では、貧困な国々(または国の中で不利な立場に置かれた社会集団)が、いわゆるテレマティック(コンピューター化された情報サービス通信)革命の恩恵を受ける方法を検討している。特にインドとマレーシアでのテレワークの実情を調査し、テレワークが特に女性のための雇用と新しい職業上の機会を創出する可能性を評価する。各国の国内および国境を超えたテレワークの事情を調べ、それがソフトウエア、金融・銀行、メディア、出版、教育などの主要なサービス部門に及ぼす影響を検討する。研究の中心は環境的に健全な都市計画のための、テレワークの可能性を評価することにある。
このプロジェクトは1997年に三つの具体的な成果を上げた。まず主要な参加組織の協力を得て、フィールドワークを開始したほか、計画会議が産業界、労働組合、女性グループ、学界、政府、UNU/INTECHパートナーのソフトウエア技術ナショナル・センターなどの参加を得て、7月にインドで開かれた。次に主な参加組織による計画会議をマレーシアで開催した。最後に12月にニューデリーで開催される、コンピューティングに関する東南アジア地域会議主催の「電子商取引」国際会議に提出する、研究成果の準備が進んだ。
UNU/INTECHのプロジェクト「地球情報社会における欧州と途上世界:雇用、教育、貿易に対する意義」は、欧州連合および途上国の貧困な地域および社会的に不利なグループに対して、情報革命が示している課題と機会を研究する企画である。プロジェクトはこの問題を、グローバル化と世界貿易秩序の形成との関連において検討している。1996年10月にこのプロジェクトのための国際的ワークショップが資金支援を欧州連合から受けて開催され、途上国と欧州からの参加者が対話の開始を目指して話し合った。プロジェクトの成果は2巻の報告書にまとめられ、出版の準備が進められている。
UNU/INTECHのプロジェクト「途上国における情報革命と経済的・社会的疎外」は、グループや国々が情報を手に入れようとする場合、それを妨げる要因を発見する試みであり、同時に人々に経済力を与え、社会活動に参加させるために、技術を利用する方法も検討している。プロジェクトの中核である国際的ワークショップはオランダ外務省の資金拠出を受けて開かれ、30人が出席した。
UNU/INTECHのプロジェクト「新技術がアジアの女性産業労働に及ぼす影響の監視」は1997年に完了した。このプロジェクトは情報集約的な生産方法が女性の雇用の質と量に及ぼす影響を、アジアの製造業とサービス産業を重点に研究した。プロジェクトの研究者の目標は、女性が必要な技術や仕事上の技能を獲得する上で障害となっている要因を明らかにすることであった。特にグローバル化や技術的変化が女性の職場での権利を守るために団結する力に与える影響を検討した。プロジェクトは人的資源の開発と職場における人間の尊厳の問題について、NGOと政策当局者との対話を開始している。バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、スリランカおよびベトナムのアジア8ヵ国が研究の対象となった。
プロジェクトの成果を集めた『グローバル化、技術的変化、アジアにおける女性の労働』の出版の準備が進んでいる。またアジア女性委員会はプロジェクト研究成果の概要をニュースレターにまとめて一般に配布している。プロジェクトについての2編の論文も発表された。その一つ「女性の要求と戦略:経済のグローバル化の中の女性労働者」は、『女性の目を通して世界を見る:女性に関するNGO本会議スピーチ』(北京、1995年)に掲載された。もう一つは「国と非政府組織の間のギャップを埋める:産業政策の形成と将来の女性労働」である。
メガシティーと都市開発
世界の都市地域では、どこでも環境問題が深刻化している。特に劇的な変化を見せているアジアの都市でその傾向が最も強い。急速な変化から生じる問題は地域的な特異な条件によることもあるが、多くはグローバル化が原因である。
都市の環境問題についての従来の分析は、地域の行政機関が下した行政上の決定と地域市場の役割という、二つの問題が中心になっている。しかし、都市の環境問題はむしろ外部的な要因によって作り出されたものが多い。それらの問題の解決には、国際的なレベルでの動きについての理解が欠かせない。
1997年中のプロジェクトの研究は、アジア8ヵ国の専門家11人の協力で進められた。さらにアジアの10都市のケーススタディ実施提案が検討され、動き出している。この研究を通じて、これらの都市の現状が明らかにされると見られる。研究の成果は1998年中に出版される予定。
『アフリカにおける都市の挑戦:大都市の成長と管理』アフリカは世界の経済と政治に組み込まれた結果、得たものよりはるかに多くのものを失った。アフリカ大陸の多くの地域で、外国への依存、貧困化、政治的な自主性の喪失が著しい。多国籍企業であれ、国際機関であれ、外的な力が支配力を強めている。そうした力は投資のパターンにも大きな影響を及ぼし、負債の償却を妨げ、大陸内部の政治に干渉するため、多くの国が外国への依存を強めている。
しかしグローバルな力のアフリカへの影響を、悲観的に捕えすぎるのも誤りである。エジプトは冷戦の政治におけるその役割から、また中近東諸国への労働力の提供から利益を得た。リビヤは石油価格の高騰で多くの収入を上げた。また他の北アフリカ諸国も、欧州との地理的な近さやアラブ世界との関係を有利に利用した。
アフリカ南部では、同大陸の大国から政治的自由を得たことで、地域の経済成長と発展の明るい展望が開けた。ボツワナのような小さな国々も、著しい社会的、経済的進展を遂げているし、ウガンダやモザンビークなどは内戦から脱却して平和を取り戻している。『アフリカにおける都市の挑戦:大都市の成長と管理』
キャロル・ラコディ編、国連大学出版局、1997年
