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国際連合大学
2000年年次報告書(HTML版)
能力育成
国連大学の能力育成プログラムの主眼は、途上国研究機関の能力強化とそれらの国の研究者、科学者たちの経歴重層化を支援することにある。毎年、大学本部と各直属機関が途上国の若手研究者120名以上をフェロー(研修生)として受け入れており、食糧と栄養、生物多様性、水産技術など多岐にわたる領域で研修を行っている。最近は、国連大学自体の研究プログラムに組み込まれた研修、開発プロジェクトに直接リンクした研修など、実践的研修活動を増やす方向にある。
2000年にはいくつかの重要な進展がみられた。
バーチャルユニバーシティーへ向けて(注12)融通性の高いインターネットは、オープンユニバーシティーなど、生涯学習を含めたあらゆるタイプの遠隔教育に最適のメディアといえる。国連大学高等研究所(UNU/IAS)のバーチャルユニバーシティー構想(VUI)は、インターネットを介して教育、研究、知識の普及を支援、強化しようというものである。ゆくゆくは先進社会と途上社会の間に存在する知識格差の解消という国連大学の使命を満たすための主要手段のひとつになるものと期待されている。世界各地の国連諸機関がプロジェクト活動の内容を教育や学習目的にモジュール化する場合の選択肢としても役立つ(注13)。
高等研究所のVUIは、具体的には遠隔教育の機能とプロセスをインターネットを利用することでより効率化するもので、その意味で衛星通信技術とテレビ会議を組み合わせる従来のバーチャルユニバーシティーの多くとは異なる。1998年に構想が具体化して以来、高等研究所では基本的に研究・開発を次の3分野に絞ってきた。
高等研究所ではこの構想の研究を幅広い枠組みのなかで進めるため、バーチャル教育に関して実績のある世界の各大学や研究機関と提携している。東京大学をはじめ、ブラジルのサンタカタリナ大学とバーチャル高等研究所(VIAS)、米国のカーネギーメロン大学とミネソタ大学、ニュージーランドのワイカイト工科大学、中国の香港大学などが含まれる。構想に協力する大学や研究機関のネットワークは今後さらに拡大することが予想され、バーチャル教育モジュールの開発や運用、テストなどに共通の関心をもつ学術機関コンソーシアムを形成することが期待される。
- 個別目的に変換可能な共同学習アプリケーション「Classroom Anywhere」(CA)の開発・使用をサポートするソフト基盤の概念開発と設計。
- CAのコンセプトを利用して「授業内容」を効果的に伝達するためのツールとシステムの構築。
- 環境問題など、特定の主題に関する学習モジュールの開発。国連環境計画(UNEP)の報告書『地球環境概況2000』に基づいてUNU/IASが2000年10月にUNEPのグローバルリソース・データベース(GRID)のために開発した試験的デモンストレーションモジュールがその1例。
注12: http://vulab.ias.unu.edu/
注13: 詳しくは次を参照: Tarcisio Della Senta and Ted Tschang, eds., Access to Knowledge: New Information Technologies and the Emerging Virtual University, IAU Press, Pergamon, 2000
水資源管理に関する国連バーチャル学習センター国連は、世界中の水資源管理の現状改善に情報技術を利用する可能性を検討しており、その検討作業に国連大学プログラム「水・環境・保健に関する国際ネットワーク」(UNU/INWEH)が大きく関わっている。国連としての目的は、途上各国における水資源管理状況を改善するため、優れた管理が行われている事例を遠隔学習と情報交換を通じて各国に紹介することにある。UNU/INWEHは、ニューヨークの国連経済社会局(DESA)による水資源管理の電子的 "バーチャル学習センター" 開発に協力する。
バーチャル学習センターが使う主なソフトウエアは、総合的水資源管理(IWRM)のための成人研修用ソフトで、CD-ROMかインターネットで利用者に届けられる。補完的サービスは各地域の研修機関をつなぐネットワークが行う。途上国の水資源管理担当者は、これを通じて水資源管理に関する概念と管理法について最新の知識や情報を入手する。サービスは無料あるいは実費としてわずかな費用で提供される。カリキュラムは10コースあり、全コースの修了に250時間かかる。全コース修了者には国連大学から修了証書が渡される。
研修プログラム国連大学は、研究者個人と研究機関の能力強化を目的としてテーマごとに特化した研修プログラムを多数、設けている。これらのプログラムのほとんどが、途上国の若手の研究者や技術者が参加できるようにフェローシップ(研修奨学金制度)を設けている。
[コンピューター技術教育]
国連大学国際ソフトウエア技術研究所(UNU/IIST、所在地: 中国マカオ)は、研修と、プロジェクトや機関単位で行う技術援助を通じて、途上国のコンピューター科学教育における能力育成に取り組む。研修コースは、現地での研修、マカオでのフェローシップ研修、フェローの先進国大学への派遣支援の3種類がある。途上国大学の講師、大学院生ならびにソフトウエア技術者が対象だが、財源が限られているため、知識の普及、技術指導員の技術訓練、大学や研究機関などの組織機能の向上に重点を置く。UNU/IISTは、研修以外のプロジェクトで受け入れた研修生も含めて、2000年度には、13カ国から53名がフェローとして研修を受けた。途上国のソフト開発能力育成で国連大学が特に重要視する分野を端的に示すプロジェクトが二つある。ひとつが「カリキュラム開発」プロジェクトで、ソフトウエア設計の基礎となるフォーマルメソッド(形式法)に関する途上国大学の教育水準を引き上げるための研修で、フェローにはマカオまでの往復旅費と滞在費が支給される。フェローは、フォーマルメソッドの実際の使い方、教材の制作、指導法などについて研修を受ける。フェローが研修で制作する教材は市販される。このプロジェクトでは2000年度に4カ国から9名のフェローを受け入れた。
もうひとつの「途上国の大学におけるコンピューター科学専攻学部開発」プロジェクトは、フォーマルメソッドを含めたコンピューター科学全般に関する途上国の大学での授業のレベル向上が目的である。コンピューター科学講座の新設を計画している途上国の大学の教員に、すでに講座を開設している他の途上国の大学で授業方法などを研修する機会を提供する。教員は帰国後、その経験を講座開設や既存講座の内容充実などに活かすだけでなく、新しく得た知識を他の大学の教員にも提供する。UNU/IISTはこれらの教員を国連大学フェローとして扱い、必要な参考文献などを支給する。受け入れる大学側は、フェローの教材費、学費などを免除するほか、帰国後の講座開設に関する相談などにも無料で応じる。このプロジェクトでは2000年度に5カ国の教員7名が研修を受けた。
[遠隔探査技術に関する研修プログラム]
ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)で毎年開設される遠隔探査技術に関する国際研修コースの14回目のコースが2000年4月24日から開かれ、中南米諸国から国連大学フェロー5名が参加した。この研修コースは、遠隔探査の原理、探査対象となる自然標的のスペクトル反応、探査システムと探査衛星、レーダー、遠隔探査データの視覚分析、デジタル画像処理、科学的研究の方法論、欧州遠隔探査衛星1号(ERS-1)計画などのテーマを毎年、取り上げている。[指導者の育成]
国連大学リーダーシップ・アカデミーは、はじめて女性のフェローだけを対象にした研修コース「ジェンダー主流化の課題」を2000年6月に開催した。このコースの主目的は北京の世界女性会議で採択された「北京行動基本計画」に沿って、意志決定プロセスに参加できる有能な女性を増やすことであった。コースは前半がニューヨーク、後半がヨルダンのアンマンで、延べ18日間にわたって開かれた。リーダーシップの理論面と政治的リーダーシップに焦点を絞ったニューヨークの研修では、ルイーズ・フレシェット国連副事務総長、メアリー・ロビンソン人権高等弁務官、キャサリン・バーティーニ世界食糧計画(WFP)事務局長などが講師を務めた。アンマンでは「権力を握る女性と意志決定」をテーマに、自己啓発と北京行動計画に内包された地域的視野、国家的視野、地球的視野について講義を受けた。リーダーシップをめぐる課題にジェンダー主流化の問題をからめて権力構造と意志決定プロセスへの女性の参加が中心的テーマとなった。これとは別に「紛争後の平和構築におけるリーダーシップ」を主題にした、リーダーシップ・アカデミーの第2回国際リーダーシップコースが2000年11月に開かれた。コースでは、紛争時には敵対勢力とのゼロサムで暴力的な関係のもとで自分を支持するグループを指揮し、和平協定が結ばれると、全てを犠牲にして支持者の利益擁護に汲々とする類の「指導者」の意識をいかに変えさせるかについて焦点が絞られた。特に、平和構築時と紛争時とではそれぞれ違う素質をもつ指導者が必要であるか否かが最大の論点になった。コース前半ではリーダーシップの素質を議論し、後半では北アイルランド、南アフリカ、東ティモール、イスラエル・パレスチナの4地域の事例について考察した。講師は、4地域の主要政党のトップが推薦する有力者に依頼したが、アドバイザー格で参加した党首もあった。
リーダーシップ・アカデミーではヨルダン国内に対象を絞ったリーダーシップ・コースもスタートさせ、その第1回を「災害管理におけるリーダーシップ:ヨルダンの視点」をテーマに10月に開いた。ヨルダンは地震、洪水、干ばつ、水不足などの自然災害によく見舞われることから、アカデミーでは民間防衛委員会災害対策部の幹部養成にも協力している。
[国連大学国際講座 (UNU/IC)]
国連大学国際講座は1999年にパイロット講座を行ったあと、2000年春に東京の国連大学本部で正規の第1回講座を開いた。200名を超える応募者のなかから34カ国の50名が選ばれ講座に参加した。国際講座は、国際機関あるいは国際的企業で将来活躍したいと希望する大学院生ならびに社会人に専門的知識を身に付けさせることを目的とする。初年度講座参加者には、各国の大学院生、研究者、国際機関や各国政府職員、NGO関係者、外交官、ジャーナリストなどが含まれ、期待どおりの色分けとなった。コースは「武力紛争と平和維持活動」「環境をめぐる組織とガバナンス」「人権−概念と問題点」「国際貿易と紛争処理」の4科目で行われた。[国連大学グローバル・セミナー]
国連大学グローバル・セミナーは、日本で生活する若者に国連と地球規模の諸問題についての理解を深めてもらうことが目的で、毎年国内各地で開いている。当初は湘南(神奈川県)と神戸の2セッションだけであったが、1999年に沖縄セッション、さらに2000年には北海道と島根の2セッションが加わり、日本の五つの地区で開催されている。2000年度の各地区セッションのテーマは以下の通り:
第16回湘南セッション「21世紀における国連への挑戦」
第6回神戸セッション「グローバル化の中の文明と人間」
第2回沖縄セッション「新千年紀におけるジェンダーと政策
−グローバルな展開と地域特性」
第1回島根セッション「21世紀の北東アジアと世界
−地域開発と国際協力」
第1回北海道セッション「21世紀の国家と民族」[中央アジアの平和と環境]
国連大学に設けられた秋野豊記念基金では、中央アジアの平和あるいは環境に関して現地で研究を行う、日本国籍を持ち博士課程在籍中または修了した、研究者に対して研究助成金を提供している。2000年度には4人の「秋野フェロー」が選ばれ、中央アジアでの実地研究に派遣された。[アフリカの天然資源]
国連大学アフリカ天然資源研究所(UNU/INRA)は、アフリカの研究機関が大陸天然資源の持続可能な利用を促す技術の開発、応用、普及に携わる、アフリカの発展を願う熟練技術者を育成するのを側面から援助することを目的とする。2000年度の主な活動のひとつは植物組織の培養に関する国際研修コースの開設であった。ガーナ大学植物学部(レゴン)、イタリアの国際植物遺伝資源研究所(IPGRI)、ナイジェリアの国際熱帯農業研究所(IITA)の協力を得て行われている植物組織培養に関する集中講座で、受講生は西部および中部アフリカの研究者、研究指導員、技術者などである。特にアフリカの食用作物と有用植物の種の保全、評価、遺伝子改良などの技術に重点が置かれる。組織培養は、バイオ技術の中でも比較的低コストであるため、組織培養技術を多面的に利用することにより食糧の安定的自給というアフリカの夢の実現につながる可能性のある理想的手段といえる。最近のコンピューター技術の進歩により定性・定量分析ツールが多数開発され、天然資源を長期的に有効活用するための選択肢がこれまでより容易に選別できる可能性が出てきた。これにより、生態系を不可逆的に破壊することなくアフリカ村落部住民の多面的ニーズを満たすことも可能となる。ヤウンデ第1大学コンピューター科学部では天然資源のコンピューターによる管理・保全に関して三種類の大学院コース開設を予定しており、UNU/INRAではそのコースプランの策定と立ち上げに協力した。コースの目的はいずれも、アフリカの学者や研究者に天然資源の分析に必要な技術を使いこなす能力を身につけさせることと、その重要性を政府関係者に認識させることにある。
[バイオ技術の適用]
ベネズエラのカラカスに本拠を置く国連大学中南米バイオ技術プログラム(UNU/BIOLAC)の活動は、最近のバイオ技術が関与する健康問題と、バイオエシックス(倫理)、バイオ技術の安全性、バイオ情報学、ゲノム科学(genomics)を総合した新しい学術分野の創出の二つに焦点を絞る。2000年度の事業では、研修プログラムの充実のほか、新しい専門領域開設のための計画策定、各種研修コースの学術レベルの強化を目的とする、外部専門家や専門機関との協議に重点が置かれた。産業界、学界、政府機関三者の代表が共同でバイオ技術の安全性について検討する新しいプロジェクトも発足した。5年計画でスタートした結核研究ネットワークは最終年度を迎え、今年度はワークショップと研修コースを開いた。[伝統的発酵食品と食品技術の向上]
国連大学は、農林水産省食品総合研究所(茨城県つくば市)、ケニアのナイロビ大学食品技術栄養学部、インド・マイソールにある中央食糧技術研究所(CFTRI)の3提携機関と共同で、大学院課程を修了した研究者が個別にテーマを選べる、発酵食品・食品技術・栄養に関する研究を兼ねた研修プログラムを設けている。[自然災害の分析と管理]
国連大学は、スイスのジュネーブ大学が毎年開く「自然災害の分析と管理」 (CERG)に関する研修コースに参加する途上国出身の研修生にフェローシップを提供している。このコースは、自然災害による被害の軽減と効果的予防手段の開発に必要な知識と技術に関する研修を行う。[生物多様性]
途上国の研究者8名(インド、エジプト、エチオピア、タンザニア、中国、メキシコ各1名、ケニア2名)が国連大学フェローとして、ベルギーのヘント大学で2000年9月にスタートした第2回生物多様性研修プログラムに参加した。このプログラムは途上国の生物多様性の監視、保全、管理に関する専門家に高度な研修を行うことが目的で、ヘント大学を含む各大学・研究機関の専門家による講義、研修生が個別に行う研究、ベルギーと周辺諸国の関連機関での実地研修の3モジュールで構成される。生物多様性に関してはこのほかに、国連大学とユネスコの共催で沿岸水域生態系、特にマングローブ林の生物多様性の保全と監視に関する新しい国際研修コースが発足した。期間2週間の研修コースはインドのアナマライ大学で毎年春に開かれる。主として東南アジア地域の研究者と研修事業の支援が目的である。
[持続可能な発展のための科学技術]
国連大学と韓国の光州科学技術院(K-JIST)が共同で実施する「持続可能性のための科学技術」に関する研修プログラムが今年度から光州科学技術院で発足した。プログラムでは、K-JISTの情報通信、材料科学技術、メカトロニクス、環境科学技術、生命科学などの学部の修士課程あるいは博士課程で学ぶ途上国出身学生に奨学金を提供する。スカラシップの枠は年間で修士課程11名、博士課程6名までとする。奨学生には授業料のほか、往復渡航費、寮費、毎月の生活費が支給される。[地熱エネルギー]
アイスランド政府の協力で国連大学が実施する国連大学地熱エネルギー利用技術研修プログラム(UNU/GTP)は今年で22回目を迎えた。今年度のフェローシップを取得した研究者、技術者は合計18名(イラン1、ウガンダ1、ウクライナ2、エルサルバドル1、ケニア2、コスタリカ1、中国5、チュニジア1、ポーランド3、ロシア1)。研修生は熱水貯留工学、熱水化学、掘削技術、環境調査、穿孔地質学、地質調査、地球物理学的探査、地熱利用技術に関してそれぞれ専門技術の研修を受けた。[水産技術]
アイスランドでは水産技術に関する研修プログラムも行われている。毎年6カ月間にわたって実施される国連大学水産技術研修プログラム(UNU/FTP)は3回目にあたる今年から、フェローシップ対象枠を9名から14名に増やした。2000年度の14名の内7名がアフリカからの研修生で、女性も6名参加した。8週間のオリエンテーションコースのあと、研修生はそれぞれの希望科目に分かれて研修を受けた。科目別内訳は、「水産資源のアセスメントと監視」5名、「水産物処理と加工における品質管理」5名、「水産企業経営とマーケティング」2名、「漁具技術」1名、「漁業政策と漁業計画」1名。「新千年紀の世界食糧需要を満たす水産資源−生産と環境のバランス維持」をテーマに今年、北京で開かれた第3回世界漁業会議ではUNU/FTPが正式に協賛団体に指定された。
ネットワーク活動を通じた能力育成国連大学は学術交流、特に途上国間の学術交流を重視しており、途上国研究者間のネットワーク交流推進を支援している。
[食糧・栄養に関する研究機関の能力向上]
国連大学は今年度、アフリカと中南米で開かれた3回のワークショップに「人間と社会福祉のための食糧・栄養プログラム」の枠内で協力した。ワークショップはいずれも、将来、栄養研究を指導する立場にある若手研究者が栄養学の権威と直接交流し、専門分野の助言や指導を受ける絶好の機会でもあった。[アフリカのコンピューター科学]
コンピューター科学研究アフリカ会議(CARI)が2年ごとに開く定例会議は、アフリカのコンピューター科学者の情報交換とネットワーク作りのためのフォーラムとしての機能も兼ね備えている。国連大学はこれらの会議にアフリカの各大学や研究機関から参加する若い研究者の旅費分として一定額を拠出している。2000年の第5回定例会議は10月にマダガスカルのアンタナナリボで開かれた。
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