The United Nations University

国際連合大学
2000年年次報告書(HTML版)


環境と持続可能な開発

 「国連大学の諸機関の研究プログラムは、特に次の主題を含むものとする。...経済的および社会的な変化および発展。環境保全および適切な資源利用。(そして)基礎科学研究ならびに人類の発展に即した科学および技術の成果の応用...」

[国連大学憲章第1条3項]

 このプログラム領域では、開発、科学技術と社会、環境それぞれにかかわる問題とそれらの相互作用を対象として取り扱う。貧困と不平等、さらに経済成長と雇用の関係に対する問題意識がその根底にある。また、グローバル化、技術(情報技術、ソフトウエア技術、バイオ技術など)の進歩、都市化などの問題にも着目し、それが人間と社会に及ぼす影響について検証する。地球環境、天然資源の管理、エネルギーの持続可能な利用と生産も重要な関心事項である。


開 発

 貧困解消はいうまでもなく再優先すべき研究テーマである。有効な開発戦略の基盤要素として挙げられているもののなかで、すでに広く是認されているものもあるが、意見が分かれるものも多い。国連大学では以下の問題に絞って研究を行う。

  • グローバル化と開発−グローバル化の推進力と影響(社会的、経済的、政治的)に加えて、グローバル化に対する政策面の対応について検討を加え、野放しのグローバル化に代わる望ましいプロセスのあり方を探る。
  • 経済成長と雇用−途上国のより急速かつ総合的な経済成長に必要な政策と手法を固定する。
  • 貧困、不平等、基本的ニーズ−"構造的貧困"という未解決の課題と"新しい形の貧困"に対処するための戦略を起案する。
  • 都市化−特に途上国に顕著な都市人口急増のもたらす種々の影響予測を行う。
 本章では、経済効率と生活福祉に向けた集団の行動についての研究、グローバル化の流れのなかにおける社会的疎外者の救済と開発を促すための政策のあり方に関する研究、資源富裕国と資源貧困国とを比較して前者の経済成長速度が鈍い理由を解明する研究などについて紹介する。


集団行動と開発

 それぞれの集団の内部で膨大な量の経済活動、その他の活動が行われている。ここで集団とは、連携して共同活動を行う組織(公式、非公式を含む)すべてを意味している。具体的には、家庭、企業、地域団体、非政府組織(NGO)、さらには行政機関などである。こうした集団内部の経済活動は市場を介した取引よりも重要性が高いにもかかわらず、エコノミストの観察対象は市場取引に限られている。国連大学世界開発経済研究所(UNU/WIDER、所在地:ヘルシンキ)の研究プロジェクト「制度と開発」(Institutions and Development)は、集団内部の行動様式のさまざまなパターン、マクロの経済環境がそれらの行動様式に与える影響、行動様式を違うものに代えた場合の効率、利益、満足度の違いなどを検討した。

 本研究で採用した方法論は動機、社会資本などのテーマに関する解析と事例研究(たとえばセネガル漁民のグループ行動、コロンビアのコーヒー生産者組合、韓国の農業協同組合、カルカッタ市内のセックス労働者集団などのケースなど)の組合わせである。集団内部の行動様式には三つのそれぞれに特色のあるスタイルが認められた。強権支配方式(P/C)、自発的協力方式(COOP)、そして物的インセンティブ方式(M)である。人間は本質的に個人主義的な存在であり、短期に最大の効用を求める、とする経済学の常識は明らかに認識不足である。むしろ、人の動機とは、長期にわたる最大効用の取得、利他主義、主体性形成といった要素が含まれる。また、ミクロレベルでの集団行動様式の形成にはマクロの環境が大きく影響することも、この研究で明らかになった。植民地主義から新植民地主義にかけての時代には強権支配型が助長されたことが、それを裏書する。マクロレベルでの市場を重視する最近の傾向はミクロのレベルにも反映され、多くの集団が、集団行動の重要な動機として、自発的協力方式に頼るのではなく財政的インセンティブを取り入れるようになった。事例研究は、ほとんどの集団が単一の行動様式では整理されず、二つないし三つの行動様式の複合型であることを示している。ただ、集団ごとに支配的要素が異なることがわかる。また、集団の形成が効率向上に重要であり、さらに貧困層のあいだで集団が形成されることが資源配分の改善と貧困解消の方向に役立つことが解った。

 この研究は現在の市場改革にもいくつかの重要な意味をもつ。まず、マクロの経済運営で政策変更を行う場合、これら集団内の経済行為に対する影響も考慮すべきであることを、この研究は示唆する。とりわけ、効率や公正さを脅かす形であらゆるレベルで市場インセンティブを強調しすぎると、自発的協力が姿を消す恐れがある。このことはすでに、経済効率を高めるうえで社会資本の重要性が認識されだしたことによって、ある程度、理解されてはいるものの、政策策定の面でのその意味合いについてはそれが完全に受け入れられているとは言いがたい。自発的協力行動は集団内部と集団間で必要とされるもので、マクロ、ミクロ両面での財政的インセンティブをあまり強調しないことによってそれを側面から支援する必要がある。この研究が示唆する政策の方向としては、経済下支えの効果がある信用制度を設けること、ミクロレベルでの自発的協力行動を奨励すること、さらに、より一般的な意味で、貧困層における集団形成を支援すること?などが挙げられよう。


不平等に関する包括的データ「世界所得格差データベース」(WIID)

 「異なる国情や貧富の差があっても、経済政策、成長、所得配分三者の間には相関関係が存在し得ることに関して新しい理論的知識を与えてくれるスケールの大きいデータベース」
    −リチャード・キャリー経済協力開発機構(OECD)開発協力局長

 「WIIDは政策決定と研究のための情報源としてきわめて価値のあるツールである」
    −カルロス・マガリニョス国連工業開発機関(UNIDO)事務局長

 世界所得格差データベースは、先進国、途上国、移行国における所得格差データの引用、転送、分析が簡単に行えるフォーマットで記録したデータベース。不平等についての資料用としても自由に活用ができ、無料でダウンロードできる。
    −国連大学世界開発経済研究所(UNU/WIDER)・国連開発計画(UNDP)共同制作

  ウェブアドレス:http://www.wider.unu.edu/wiid/wiid.htm


天然資源と経済開発

 資源富裕国は資源の裏付けにより投資、輸入の両面で資源に乏しい国に較べて能力的に余裕があると思われがちである。しかし、1960年代を境に投資と輸入実績に関しては、資源貧困国が資源に富む国を大きく上回るようになった。図1に示すように、1980年代中期以降、主として鉱物資源に依存する資源富裕国のGDPは資源貧困国のそれを下回る状態が続く。

 UNU/WIDERの「天然資源依存型成長モデルの問題点」(Problems in Natural Resource-based Growth Models)プロジェクトは、この一見逆のように見える事柄の原因は政策の失敗にあると指摘する。資源の少ない国は政策の失敗を犯す可能性も小さい。これらの国は概して国土が極端に狭いために、一部による土地寡占に対する社会的反発が強く、従って政治も貧しい過半数に対して関心を向けざるを得ない。その結果、政府が少ない税収の効率的投資の必要性を認識することとなり、長期的に見て比較的に優位となる経済政策をとることとなる。この姿勢が急速で公平性のある経済成長という好循環につながる。

 逆に資源に恵まれた国では、政策失敗が続いてもある程度は許容される。こうした国では政策の合理性の犠牲の上に利権を独占するグループがその資源収入を手離さないという政治国家が生まれる可能性が高い。それらの国は、競争力のない未成熟産業を助成するために、一次産業に過重な税負担を強いる結果、結局は経済が一次産業依存から脱却不能になり、国際競争力も低下する一方になる。加えて、社会資本(取引コスト低減に欠かせない信用と各種制度)と自然資本がいずれも消耗劣化し経済成長も維持できなくなる。こうした失政に基づく経済破壊からの復原には、経済インフラと社会資本の再構築が必要であるが、それには数十年かかることもある。

 しかし、かならずしも成長停止とはならない事例も一部の資源富裕国(チリ、ボツワナ、マレーシアなど)に見られる。政策に実効性があり、市場秩序が維持されることが絶対原則である。資源富裕国はまた、資源収入の配分を合理化するための開発銀行、歳入平滑化のための一次産品収入安定化基金、効率的公共投資を保証する公共事業査定制度など、機構や制度面を整備する必要がある。国内の二主要民族グループの協調合意を取り付けて成長軌道に乗ったマレーシアの例は、政治国家が国民合意に基づく民主主義体制へと脱皮し、制度面が整備されて商取引コストが下がり、社会的緊張が緩和されると、経済発展への可能性が開けてくることを示している。


グローバル化、疎外、開発

 UNU/WIDERの「グローバリゼーション=弱小国編入の障害」(Globarization and the Obstacles to the Successful Integration of Vulnerable Economies)は、グローバル化のプロセスから取り残される途上国の抱える問題を考察する研究である。1960年当時は最貧国であったいくつかの国はそれ以降、急速な発展を遂げ、現在グローバル化の恩恵に浴している。シンガポールはその典型である。しかし、残りの過半数の国は、過去20年間に貿易、投資、金融などの面で進行したグローバル化から取り残されている。このようにグローバル化の下位にある国として42の国をこのプロジェクトで確認した(図2の太線で示す平均成長曲線より下に位置する国々)。その多くの国では国民の生活水準が最近になってようやく10年ないし40年前のレベルまで回復しているのである。

 したがって、グローバル化から疎外される国々をなくし、グローバル化の流れに即した形の持続可能な開発を促す政策を考えることが、概して開発問題に関わる人びと、特にエコノミストにとっての大きな課題である。プロジェクトの経験則と事例研究から三つの問題が浮かび上った。第一が、グローバル化と経済成長を促す上できわめて重要な役割を持つ有効な制度、特に政治的権利、法の支配、そして行政能力の問題である。第二は、保護主義の問題である。先進国にみられる保護主義傾向が弱まれば途上国に有利に働く。WTO(世界貿易機関)の反ダンピング措置承認の条件が現在のような形で適用されるのであれば、途上国の輸出振興を大きく阻むことになる。第三が、グローバル化に対する途上各国の受け入れ方の問題である。途上国は今のように、最恵国待遇の相互承認を定めたWTOルールに特例を認めさせるためにロビー活動に熱を入れるよりは、先進国に対してより公平な形での市場開放を強く要求するほうがはるかに説得力がある。


科学、技術、社会

 科学と技術は開発を支える基本的要素である。技術の急速な進歩、とりわけ情報通信技術(ICTs)とバイオ技術の進歩は、これまで想像だにしなかった領域で新たな好機を生み出した。この分野での国連大学の研究は以下に重点を置く。

  • 技術革新−新しい技術が効率と競争力の改善に与える効果と途上国の発展への影響。
  • 情報技術(IT)とバイオ技術−ITとバイオ技術が社会全般に及ぼす影響。
  • ソフトウエア技術−ソフトウエア開発におけるフォーマルメソッド(形式法)
  • 食糧・栄養−人間開発(社会開発・人格形成)と食糧・栄養との関連をめぐる研究ならびに能力育成
 本章では、技術革新のための国家戦略のほか、南ヨーロッパ諸国の技術力向上に関する国連大学の活動を紹介し、さらにソフトウエア技術に関する実用向けの研究活動についても触れる。


技術革新のための国家的システム

 人間の開発に取り組む上で極めて効果的とされるもののひとつが技術革新である。いかなる国も国民の生活水準向上を期するのであれば、技術革新のための国家戦略を打ち出す必要がある。オランダのマーストリヒトにある国連大学新技術研究所(UNU/INTECH)は、これまで技術革新とそのための国家戦略策定に向けた政策的取り組みの2点に関して重要な研究を行ってきた。国連大学が中国の科学技術省と共同で2000年9月に開いた専門家会議では、研究者と政策担当者の側から、技術革新とそれを推進する政策面での最近の進展に関して50点以上の学術報告が発表された。

 会議では、技術革新のための国家的システム、集団や地域単位の技術革新システム、先端技術、社会の受け入れ体制、技術革新と持続可能な開発の関係などを中心に、さまざまな問題が議論された。途上国・地域の多くは、社会革新を図る以前に、乗り越えなければならないそれぞれの国特有の困難や障害を抱えている。激動し絶えず変化する状況のなかでは、技術革新政策も時々の状況に合わせる形で調整していかなければならない。開発という複雑なプロセスを途上国がうまく管理できるか否かは、最終的にはその国の政策の立案と実施の能力に掛かっていることは明らかである。会議が中国で開かれ、それに中国以外の国からも専門家が出席し、国際的な討議と交流が図られたことは特に意味深いものがある。中国はいま、目前に迫ったWTO加盟に向けて科学技術政策の刷新に取り組んでいるが、それは同時に、20年に及んだ市場志向型の改革による経済体制移行の成功にともなって生じた国内状況と対外関係における変化がその必要性をもたらしたともいえる。この会議は、中国がその革新政策を今後さらに発展させる上で大きく寄与した。

 UNU/INTECHでは、この問題に関連して、「途上国における市場対応型革新政策(Market-friendly Innovation Policies in Developing Countries)」と題した別の研究プロジェクトも実施している。途上国産業界の研究開発(R&D)への投資意欲刺激のために政府が導入すべき仕組みや制度について研究するプロジェクトで、イスラエル、インド、シンガポール、マレーシア、南アフリカ共和国5カ国の経験に基づくものである。研究開発を行う専門技術教育を受けた有能な研究者集団が存在しないまま、単に税金優遇策や研究助成といった、財政面に偏ったR&D奨励策だけを講じてみても、期待したほどのR&D投資にはつながらないことが、これまでの研究で明らかになっている。結局のところ、人材育成、特に科学・工学関係の人材育成のための政策強化の必要性をこの研究は示唆する(注5)。


注5:本UNU/INTECHプロジェクトの報告「Technology Policy in Industrializing Countries」はJournal of the Economics of Innovation and New Technology (JEINT) の特集号(2001, vol. X, Nos. 1&2)に掲載。


南ヨーロッパの産業競争力

 ヨーロッパの南端に位置する、地中海沿いの国々は、EU(欧州連合)全域における競争に生き残るための必須条件である産業構造改革に頭を痛めている。かつて欧州共同体と称した時代に同機構は、南欧各国の製造業に先進技術と資金を誘導する制度を整えたが、80年代にかなり捗った域内格差是正も、90年代に入って停滞が目立つ。改革推進を目的とするこうした公的制度の恩恵が受けられる企業はやはり限られており、そうしたごく一部の企業だけが競争力を伸ばすとともに改革推進と規模の拡大を平行して進めることができたにすぎない。

 UNU/INTECHでは、ギリシャ、スペイン、ポルトガルの製造業が欧州統合市場で競争力を維持しつつ成長軌道に乗る“移行”に際して必要とする特殊なニーズを調べる研究プロジェクトも実施している。焦点は、投資と運営資金のための十分な技術・財政資源を確保するためにそうした企業がどう変わっていったかを明らかにすることにある。技術資源の確保は1回限りのものではない。その企業にとって必要な技術能力を徐々に積み上げていく根気のいる作業で、それをすることによってはじめてさらなる拡大のために技術を完全に消化し、それを生産と販売両面に効果的な形で活かすことができる。

 研究では、かなり工業化の進んだ他の地域の国々にも参考になる、いくつかの興味ある事例が明らかになった。そのなかで特に、生産工程へのIT導入に向けた投資の不足が注目された。上記3カ国のすべてで、技術的に成熟した領域に関しては技術革新向けの投資が難しくなる傾向があることが裏付けられた。また、企業による新事業への投資リスクの判断も、政府のマクロ経済政策によってかなり左右されるようだ。企業経営者は資本コストよりはむしろ資本調達の難易度を重視する傾向がある。このことは、最近の経済学理論でも言われることだが、投資に関する意志決定の"質"の重要性という興味ある問題を提起する。


ソフトウエア技術

 コンピューターの急速な普及とITの進歩で、途上国のソフトウエア専門家と技術指導要員養成が急務とされる。マカオにある国連大学国際ソフトウエア技術研究所(UNU/IIST)は、途上国がソフトウエア技術の研究開発ならびに技術者養成の能力を独自に確保できるよう、支援することを主務とする研究・研修センターである。2000年度には、「リアルタイムシステムの理論と設計手法」と「ソフトウエア開発のフォーマルテクニック(形式技法)」という応用面に関する二つの研究プロジェクトで、12の途上国から国連大学フェロー37名を受け入れ、研修を行った。

 リアルタイム・ハイブリッドシステムは、エレベーター、生産ロボット、組み立てラインなど、今日のコンピューター制御システム系の基幹となる重要な役割を持つ。コンピューターを内蔵したシステムがほとんどで、そのコンピューターが機械的装置と情報をやりとりしながらシステムを制御する。これらのシステムはしばしばシステム外で発生した衝撃にリアルタイムで対応することが求められる。これらのシステムにとってシステムの安全と信頼性はすべてに優先する。「リアルタイムシステムの理論と設計手法」プロジェクトはこの点を考慮して、リアルタイム・ハイブリッドシステム開発のためのモデル、理論、設計計算、支援ツールの開発と、ハード・ソフト混合システム同時設計のためのフォーマルエンジニアリングに重点を置く。このプロジェクトの2000年度の成果は、研究スタッフ、研修生、ならびに元研修生らにより14の会議で発表され、会議議事録ならびに国際的学術専門誌に掲載された。

 「ソフトウエア開発のフォーマルテクニック」プロジェクトは、途上国のニーズに合わせた実用向けソフトウエアシステムの設計に必要な先端ソフトウエア技術の開発と応用面に焦点を絞り、以下のサブプロジェクトで構成する。

  • マルチスクリプト(MultiScript)−異なるスクリプトに対応する多言語文書作成・編集ソフトシステムの構築を目的とする。
  • エンタープライズモデリング、分析、実施−フォーマルメソッドを使った事業創設モデリングの開発。e-ビジネスでの利用価値が高い。
  • RAISEツール−ソフト開発におけるフォーマルメソッドの使用を支援するツールの開発。
  • コンポーネントとオブジェクトオリエンテッド・デザインパターンからソフトウエアを制作するための手法とツール−既存の要素から目的と合ったソフトウエアをデザインするための方法とツールの開発。
 このプロジェクトの2000年度の成果は、研究スタッフ、研修生、ならびに元研修生らにより9つの会議で発表され、議事録ならびに国際的学術専門誌に掲載された。


環 境

 環境資源の利用、そしてその保全と改善は人びとの福祉と発展に深く関わっている。環境問題は、食糧の安全保障、エネルギーの生産・消費、工業開発、都市の拡大など、多岐にわたる領域と複雑に絡みあっていることは言うまでもない。この分野での国連大学の研究と能力育成活動はすべて人間活動と環境との関係に焦点が絞られる。以下はその主要テーマ。

  • 天然資源管理−生産的であると同時に持続可能な形での天然資源利用。焦点を資源消費と環境汚染の最小化に置く。
  • 産業と都市の持続可能な開発−人間の生活様式と消費形態が広い意味で都市と産業の両者に及ぼす影響に関する考察。
  • 水−水と環境と人間の健康に関連する主要問題についての理解と対処能力の育成。
  • 気候変動とグローバルガバナンス−環境問題、経済問題、社会問題相互間の複雑なつながりを理解し管理するための取り組み。
 本章では特に水をめぐる最重要課題と世界水フォーラムに関する国連大学の活動について紹介するほか、土地利用、生物多様性、ならびに環境の急変が人間の生活安全に及ぼす影響などに関する活動も紹介する。


人間・土地管理・環境変化

 「人間・土地管理・環境変化」プロジェクト(UNU/PLEC)は環境問題に関する国連大学の代表的プロジェクトの1つで、農業体系内での生物多様性保全に向けた持続可能で参加型のアプローチを探ることを目的とする。西アフリカ(ガーナとギニア)、東アフリカ(ウガンダ、ケニア、タンザニア)、アジア太平洋(タイ、中国、パプアニューギニア)、熱帯アメリカ(ジャマイカ、ブラジル、ペルー、メキシコ)の4地域の研究クラスターで構成するネットワークを通じて、合計21カ所に設けられた実証サイトで作業を行っている。PLECネットワークにはすでに各国の40以上の研究機関と、常勤研究員、協力研究者、研究助手、学生を含めた200名以上のスタッフ(その大半が途上国在住者)、そして現地の農民数百名が参加する。すべてのクラスターで実証作業を主導するのは研究者よりもむしろ現地の熟練農民で、この結果はきわめて有望である。このネットワークのユニークな点は、南・南協力と同時に南・北融合にも効果的であることである。

 PLEC参加者は、実証サイトにおける生物多様性、農業多様性、人口、管理体制などのデータを収集し、充実した内容の報告書を作成する。プロジェクトの目標および目的に向けた各種作業はすでにかなり進んでおり、特にサイトの設定、最適モデルの必要最低条件のリストアップとモデルの開発・実証作業、さらに能力育成とネットワーク活動に関しては着々と成果が上っている。データベースの構造、作業マニュアル、サンプルデータベースなどに関する詳しい情報はPLECホームページに掲載し(注6)、プロジェクトの進行状況は逐次、プロジェクトが発行するニュースレター『PLEC News and Views』に掲載されている。

 参加者が記入するPLECの詳しい査定表には、基本データのほかに、農業多様性保全の特に優れた実践例も記録されている。初期段階では、農耕作業や人間による土地の手入れが必ずしも生物多様性を損なわせるわけではないことがわかった。逆に、生物多様性を強化し土質改善につながる可能性も認められている。タンザニアでは、土壌の肥沃度や湿度の管理あるいは土壌浸食防止などに多くの伝統的手法や新しい技術が有効であることがこのプロジェクトによって確認された。アマゾニア(ペルー・ブラジル)・クラスターは、過去数年間に蓄積されたデータの解析から、小規模農家がどのようにアマゾン氾濫原の生物多様性を保全し、強化してきたかを明らかにした。キアンブ(ケニア)の実証サイトで行った生物多様性アセスメントでは、原生林地区よりも私有の耕作地のほうが種の多様性が豊富であることが解った。中国においては1980年代初期以後、「家庭契約責任制度」のもとでかつての人民公社の土地が個人に分割移譲されてきたが、中国クラスターは、その政策によって土地所有の形態が多様化したことの影響を調査・分析する作業に協力している。


注6:http://www.unu.edu/env/plec


東アジア沿岸水域

 国連大学本部の学術部門は、東アジア沿岸地域一帯で深刻化する近海水域の天然資源劣化と環境汚染に対応して、これら沿岸水圏に関わる一連の環境問題に焦点を絞ったプロジェクトを実施している。このプロジェクトでは特に重点項目として、汚染物質のモニタリング(監視)、生態系被害の調査、そして状況改善のための政策と具体的方策の選定を挙げている。一連の作業には、国連大学を中心に地域諸国の各調査試験機関がネットワークを組んで参加している。モニタリング作業に参加するのはインドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、日本、フィリピン、ベトナム、マレーシア9カ国で、それ以外に過去にはインド、パキスタン、バングラデシュが沿岸生態系、特にマングローブ林に関する作業に参加した。

 モニタリングの対象物質は、内分泌撹乱化学物質(EDC、通称「環境ホルモン」)の疑いがある殺虫剤、いわゆる有機塩素系の化合物が中心となる。モニタリング結果を検証する5回目の国際シンポジウムと研修ワークショップが2000年4月、マラヤ大学と共同でクアラルンプールで開かれた。これまでにプログラムに参加する各国調査チームからは、沿岸地域汚染とDDT(農作業で一般的に使われる殺虫剤)を関連づけるデータが集まっている。このプログラムには島津製作所の支援を受けた。


アフリカにおける水質管理モデル

 アフリカのマラウイ湖は抜群の水質の良さで知られているが、流入する栄養素の増加でかつてビクトリア湖で起きたような富栄養化(栄養汚染)の懸念がでてきた。それを防ぐため、国連大学プログラム「水・環境・保健に関する国際ネットワーク」(UNU/INWEH、所在地:カナダ)は世界銀行の支援を受けて、マラウイ湖の自然や化学物質、水質などが変化するプロセスを予測するモデルを開発する大型プロジェクトを実施して具体的な成果が見られた。このモデルは集水域での土地利用形態と水需要の変化がもたらす影響をかなり正確に予測する。

国連水資源開発報告のための作業

 UNU/INWEHは、国連が新たにスタートさせる、世界の水資源の2年ごとの現状に関するアセスメント結果を報告書にして発表する新プログラムに参加する。地球全域の水資源に関しては情報が存在しない、あるいは存在してもデータとして不適切である現状を改善し、各国の水資源管理をより効率化させることが『世界水発展報告?世界の水資源の現状』(WWDR)を作成する目的で、特に途上国における水資源の質や利用形態、健康への影響、河川流域管理などの状況の監視、評価、報告に関する各国の行政機能強化が主たる目的である。プログラムを一定期間継続することにより、いずれ世界全域における水資源の状況とその管理に関する全体像が把握できるものと期待されている。2002年に発行されるWWDRの第1号には、1992年の地球サミットで採択された「アジェンダ21」に盛りこまれた、水に関する活動目標達成に向けて地球全域で行われている作業の現状分析の結果と進転状況報告が掲載される予定である。

 今回UNU/INWEHが開発したモデルを使うことにより、現地の科学者が淡水資源に流入する栄養素や沈殿物の量、汚染物質の分散作用、将来の富栄養化進行速度などが予測できるほか、土地開発を進める際に必要になる、周辺の河川や淡水湖の水質に与える影響の予測や影響緩和策の評価などにも役立つ。マラウイ湖の場合は、湖岸に接する3カ国(ザンビア、タンザニア、モザンビーク)の研究施設に同種のモデルをそれぞれ設置して運用のための技術研修が行われた。研修生は大学院の学生が中心で、研修修了後はそれぞれの大学でモデルの操作と他の学生の研修を担当することになる。


世界水フォーラムのフォローアップ

 2000年3月にハーグで開かれた第2回世界水フォーラムとその閣僚会議のフォローアップを兼ねて、国連大学では国際河川の流域管理に関する過去の研究(注7)を踏まえた追加研究を実施する。新プロジェクトでは、深刻な水質汚濁を抱える河川や湖沼と越境汚染の脅威にさらされる沿岸生態系に焦点を絞る。国境を越えて広がる環境問題と環境ガバナンスを組み合わせた取り組みは全く新しい試みである。


持続可能な開発の枠組み

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最近の報告では、地球環境が直面する脅威が規模、危険性ともに拡大傾向にあることが、指摘されている。1990年代はこの1000年を通じてもっとも気温の高かった10年とみなされ、特に1998年は観測史上、もっとも暑い年だった。海面が上昇し海抜の低い沿岸地域の広い範囲が水に浸かり、季節の変化が従来とずれ始めている。途上国の人口はいずれ世界総人口の85パーセントまでを占めると予想され、これ以上の環境破壊と天然資源の収奪をともなわないで人類のさらなる発展を維持するためには大変な努力を要することになる。

 東京にある国連大学高等研究所(UNU/IAS)は、特に大きく影響を受ける国々の政策立案者に新しい知識を提供するために、より幅広い「持続可能な開発の枠組み」の創出を目的とした研究を行っている。プロジェクトでは、特に各国の「環境会計」の評価に重点を置く。途上国のなかでもインド、インドネシア、中国などは過去半世紀にほとんどの分野で飛躍的に開発が進んだが、その驚異的成長ぶりは環境悪化を代償にして成り立ったのである。

 解析作業では以下の事項を明らかにした。

  • 人口動態、人口学的遷移、構造的変化、成長牽引要素、成長の可能性をもつ分野、環境コストと「緑のGDP」などに関する具体的数値、
  • 土壌浸食、水質汚染、森林の荒廃、生物多様性、貧困、都市化、エネルギーの節約と効率、環境保護に対する各国の制度的阻害要因、
  • 「緑のGDP」などを含む新しい指標の使用を各国政府に普及させるための有効な戦略、
  • 各国の中央政府ならびに地方行政が持続可能な開発に向けて起こすべき活動。
 中国での研究が1999年に終了し、その成果はすでに報告書にまとめられた(注8)。インドに関する報告書も2001年初めに完成予定。現在、インドネシア、エジプト、ブラジルでの研究のための基本計画の作成を行っている。


注7:Asit K. Biswas and Juha I. Uitto, eds., Sustainable Development of the Ganges-Brahmaputra-Meghna Basins、国連大学出版部、東京、近刊(2001)。
注8:Fu-chen Lo and Yu-qing Xing, eds., China’s Sustainable Development Framework、国連大学高等研究所、東京(2000)。


異常気象現象の影響軽減

 赤道太平洋東部の水温上昇であるエルニーニョの発生周期は、太平洋東部と中部海域の貿易風と表面海流に影響する。さらに南米大陸西部一帯で激しい異常気象を引き起こすだけでなく、世界の他の地域の気象にも甚大な影響が出る。1997年から1998年にかけて発生したエルニーニョは「世紀のエルニーニョ」と呼ばれたほど規模が大きく、各地で大型サイクロンや熱波、山林火災、洪水、厳しい寒気、干ばつが相次いで発生し、数千名の死傷者を出す大惨事を引き起こした。被害総額は320億ドルないし960億ドルと推定される。

 国連大学は、国連の3専門機関と米国大気圏研究センター(NCAR)、それに異常気象の被害が出た中南米、アジア、アフリカの16の途上国で活動する複数の調査チームと手を組んで、このときのエルニーニョに対する各国の対応のあり方を調べて政策面の提言を行うための大型調査研究プロジェクトを実施した。関係各国の気象予報官のほとんどが97年夏のエルニーニョ発生を事前に予測できなかったし、実際にエルニーニョ現象が起きてからかなりの期間、だれひとりとして予想される被害規模を的確に判断できなかった。調査ではっきりしたことがひとつある。エルニーニョの予報体制と防災措置のために十分な予算措置を講じないかぎり、世界の途上国では、今後も2年ないし7年ごとに数千人の死傷者と数百億ドルに上る経済的損失が繰り返されることは避けられないということである。それ以外にも次のような状況が明らかになった。

  • 適切なレベルでの対応を図るために各国政府首脳による認識が必要である。
  • 調査対象16カ国のすべてにおいて、エルニーニョ関連の異常気象に対する全国的監視・予報網整備に必要な人員と予算が決定的に不足している。
  • アフリカとアジア太平洋両地域におけるエルニーニョによる気象関連のより正確な予測を可能にするため、気象衛星の常時監視のもとに、浮遊型の気象データ記録ステーションのネットワークをインド洋上に配置する必要がある。
  • 国内でもっとも被害を受けやすい人たちを識別し、エルニーニョに対する防災意識を与え、災害発生に備えて被害管理を訓練することの出来る専門家の育成は最優先事項である。
  • 各地のエルニーニョ関連の予報の信頼性を一段と高めて、各政府機関が予報をより真剣に受け止める体制を築く必要がある。それには、人材育成と平行して体制面の整備が必要である。
  • 気象学的研究と現実の社会・経済的ニーズとのギャップを埋めるため、行政、研究機関、大学など気象を扱う専門機関の一層の努力が必要である。
地球環境パートナーシッププラザ(Global Environment Information Centre?GEIC)

 東京の国連大学本部ビル一階にある地球環境パートナーシッププラザは、国連大学と日本の環境省が共同で運営する情報センターで、環境問題全般に関する情報の発信ならびに交換を促すことを目的とします。多くのNGOが環境活動に参加し、環境問題に対して一般社会が関心を高めるための効果的役割を果たしています。また日本とその自然環境に関する情報の海外への発信と海外情報の日本での普及にも大きく寄与しています。環境問題に関する意識向上にインターネットをいかに活用するかも、GEICの重要な研究課題です。GEIC独自に開発した複数のデータベースもこのセンターの自慢のひとつです。2000年度には「世界環境デー2000」関連の諸行事、国際会議「森林の価値」の開催準備などで活躍しました。この二つの催しの詳細については:http://www.geic.or.jp/wed2000/ または http://www.geic.or.jp/forest/をご参照ください。


森林の価値

 森林の経済的価値はよく知られているが、森林が地球の気象を安定させる上でも貴重な存在であることはあまり知られていない。地上の多様な生物種が森林を生活圏にしている。しかし伐採や手入れ不足のため毎年、1000万ヘクタールの原生林が地上から姿を消している。森林の価値は各国政策担当者の間では、よく知られているものの、国際社会は森林の問題に関して有効な対策を打ち出せないでいることが、ようやく問題になりはじめている。

 国連大学では、この危機的な森林の現況を前にして、持続可能な開発の推進に森林の持つ多様な価値の本質を改めて評価しなおす「森林の価値−森林と持続可能な開発」と題した国際会議を、2000年10月に環境庁、林野庁、それに森林と持続可能な開発に関する世界委員会(WCFSD)と共同で開催した。会議は、歴史的・文化的背景のほか生態学的あるいは経済的側面など、あらゆる角度から森林のもつ本来の価値を再確認することに焦点を絞った。会議では、広中和歌子参議院議員、オーラ・ウルステンWCFSD共同議長(元スウェーデン首相)、ジョージ・ウッドウェル ウッズホール研究センター所長のほか、学界、国際機関、政府、市民社会を代表する専門家が講演した。

 会議の最後に研究発表と提議をまとめた宣言が発表され、国連大学はその宣言に基づいて森林をめぐる多様な問題に関するさらなる活動の準備を行っている。これには失われた森林の復元に向けた市民活動の強化について利害関係者を交えて討論する研究会、2000年11月にオランダ・ハーグで開催された国連気候変動枠組み条約第6回締約国会議(UNFCCC/COP6)で森林の二酸化炭素吸収・貯留効果を検討する分科会などの開催が含まれる。会議をきっかけに国連大学は国連による「国際森林年」制定を推進しているほか、地球サミット10年レビュー「リオ・プラス10」へ向けた各種調査研究も計画している。

 持続可能な開発における森林の役割に関する過去の研究(注9)を踏まえた新しいパイロットプロジェクトも2000年からスタートした。テーマを絞りこんだ研究になる予定で、それを通じて途上国や経済体制移行国における持続可能な開発に果たす森林の役割を研究するネットワークと能力育成プログラムの立ち上げを支援する。作業はすでにフィンランド森林研究所と欧州森林研究所の協力を得て実施段階に入っている。


注9:Matti Palo, ed., Forest Transitions and Carbon Fluxes, Global Scenarios and Policies, 1999 (in the UNU/WIDER World Development series)

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