logo 国際連合大学



ハリケーン「カトリーナ」に見る国連の役割
ラメシュ・タクール、ヤノシュ・ボガルディ、ラルフ・デイリーによる特別寄稿

2005年9月15日

様々な批判はあるものの、国連はその学習能力においてなんら劣るものではない。世界で最も強く豊かなアメリカが、警報まで出ていたハリケーン「カトリーナ」による被害の救助・復旧にあれほどてこずっているのに比べると、昨年12月26日に発生した破壊的な地震と津波に対する国連機関の対処は、はるかに効率的で効果的だったといえよう。

問題にきちんと対処できるようにするには、まずそこに問題があることを認めなければならない。国連大学は、国連の様々な活動にとって知の源泉たることをめざした国連の研究機関で、今日の最先端の学問を集約し、明日の政策課題を先取りしようとするものである。これは同時に、ホスト国である日本のささやかな貢献がいくつものアイデアによる増幅効果で効果的に活用され、政策の促進に役立っているということでもある。

水についていうと、カナダのハミルトンにある国連大学の研究所が水資源と流域の管理を専門に扱っているほか、ボンの研究所では人間の活動パターンによって引き起こされる環境悪化の研究を、そしてブラジルのパンタナルでは湿地管理の研究を集中的に行っている。私たちは人災や自然災害に対する人間の脆弱性を減らすため、変化やリスクを科学的に管理していくことに重点を置いて取り組んでいる。

だが、問題の規模があまりに大きいので、実際に問題があることさえ認めようとしない人が多い。

大きな洪水(100年に1度というような)の危険にさらされながら生活している人は世界で10億人に上る。現実に毎年洪水の被害にあっている人はすでに5億人を越え、世界中で2万5,000人以上の人が毎年亡くなっている。大きな洪水が発生したら被害を受ける恐れのある人は2050年までに約20億人に達するだろう。

アジアは特に危険な地域である。過去20年間に世界で起きた洪水のうちアジアで発生したものは約4割だが、洪水による死者の実に9割がアジアの人々だった。貧困層はとりわけ危険性が大きい。なぜなら最貧諸国の最貧地域には初期警報など存在しない上、健康保険にいたっては尋ねるのもおろかという状態だからである。

同様に、米国とバングラデシュで同じレベルの洪水災害が起きたとすれば、経済損失の合計額は米国のほうが大きいが、国内総生産の割合で見るとバングラデシュの損失は米国の5倍になる。洪水による経済損失は毎年500億ドルから600億ドルに上っているが、これは海外からのすべての寄付金を合わせた合計額と同額だ。

日本にも海抜ゼロ以下の土地が全部で約1,200平方キロもある。この中には、東京を擁する関東平野も含まれている。1959年、強大な伊勢湾台風によって引き起こされた5メートルの高潮で濃尾平野の堤防が決壊し、名古屋では5,000人以上の命が失われた。今日、東京湾のウォーターフロントに沿った江東区のデルタ地域には300万人が住んでいる。ニューオーリンズ規模の災害発生を恐れた政府は、堤防の決壊した原因のほか、予防措置や災害管理活動について調査するため災害管理担当者をニューオーリンズへ派遣することにした。

このような洪水に対するもろさが急激に高まった原因としては、気候の変化、地球温暖化、海面の上昇、森林破壊(特に山岳地帯)などに加えて、きわめて肥沃な土地、豊富な給水、それに輸送の便という条件のそろった、洪水の起きやすい地域で人口が増加していることも挙げられる。現在の研究によると、今後一層温度が上昇し降水量が増えることが予測されている。北半球の北部には嵐の発生が多くなる一方、大陸地域は夏季の乾燥が進み、干ばつが続くだろう。徐々に気候が変化し森林破壊が進む中、異常気象がますます増えている。

こんな状況にどう対処すればいいのだろう。

今必要なのは何か。リスクや脆弱性についてもっと精度の高い科学的根拠のある情報を得ることだ。できれば、京都議定書をさんざん非難し賛成しなかった者たちに、この議定書をもっと真剣に検討してもらいたい。また、新しく高度な警報システムのほか、自然の恵みであるマングローブ、珊瑚礁、湿地などを含めたインフラも必要である。さらに、災害への準備管理担当者を指名するにあたっては、政党や個人への義理立てではなく、専門性と能力を重視することが必要だ。つまり、政府を毛嫌いして公共セクターに資金を回さず、すべての政府機関を民営化したがるようなイデオロギー信奉者ではなく、すぐれたガバナンスと効率的なサービスの提供に本気で取り組める人を選ばねばならない。

さらに一番重要なことは、何か起きてから対処するのではなく、まず予防するという姿勢に切り替えること、視点を地方から世界へと移し変えることだ。現在は、準備資金1ドルに対し救済資金に100ドル使うというパターンだが、実際は災害予防をすることで費用便益比率が10対1または15対1に改善されるのである。自然災害に対する政府の対応能力を強化し、土地や資源の持続可能な管理を進めていかなければならない。

私たちは国連至上主義者のように、国連をこの上なく立派な機関として称えているわけではない。ボルカー報告書によって石油・食糧交換プログラムの不正疑惑が白日の下にさらされたが、このように国連内部にも失政や汚職は存在している。だが私たちは、国連がこれまで積み重ねてきた経験と、他との比較における優れた点は正しく認め、それを利用すべきだと考えている。

グローバル・ガバナンスの難しいところは、緊急を要する問題の多くはグローバルな規模で発生しており、その解決には多国間の努力が必要なのに、政策を決める権限や問題に取り組むのに必要な資源の動員は各国政府にゆだねられている点だ。このため、加盟国には国連による決定や政策の実行を阻止する力はあっても、国連にグローバルな問題解決の権限を与え、それを実現に導くだけのビジョンや意志がないという結果が生じている。国連は地方自治体や州や国家の政府を取り替えることはできない。だが多国間外交や集団活動の中心となって、多くの国が共有する問題の解決にあたることはできる。国連はその持てる力を発揮するべきであろう。


Copy Rights: 2005 UNU. All Rights Reserved.