共生型地球社会を求めて―激動する世界における公正なグローバル化

200471日(木)14:00-14:20

 於 国際連合大学本部 エリザベスホール(5階)

 

「公正なグローバル化」と企業の役割 

世界委員会委員、(株)東芝会長 西室泰三

 

 

1.        世界委員会に参加しての感想

 

1)        報告書の特徴

 

世界委員会の委員を務めました西室でございます。委員会がまとめた報告書の内容につきましては、午前中にILOのヴァン・デル・ホーベンさんから紹介があったようですので、私からは、委員会の議論に参加しての感想と、現在我々が直面しているグローバル化の課題解決に向けて企業が果たし得る役割、すなわち、製品の提供、富や雇用の創出、CSRの実現など様々な活動を通じての役割についてお話をしたいと思います。

 

世界委員会は皆様ご覧の通り大変多様なメンバーで構成された委員会でありましたので、様々な意見や主張が出てきて、当然のことではありますが、意見の集約は易しいものではありませんでした。しかしながら、そうした意見の相違や多様性を乗り越えて、最終的にグローバル化が経済・社会の両面における進歩に貢献できるはずだというポジティブなメッセージを出したことは、大変重要なことだと感じています。

 

 報告書では、「国内から始める」(Beginning at home)と主張しています。グローバリゼーションの中で、ともすれば影が薄くなりがちな国家について、各国の政策や制度こそが、国ならびに国民がグローバリゼーションの恩恵を受けられるかどうかを基本的に決定する要因であると指摘しているのは誠に重要であります。こうした視点から途上国のキャパシティ・ビルディングを支援していくことが必要と考えます。

 

 もちろん、グローバリゼーションのガバナンスにかかわるのは国家だけではありません。国際機関、企業、労働者、市民社会などあらゆるアクターが、より良い社会の構築のためそれぞれ貢献すべきであることを報告書は明らかにしています。こうした様々なアクターの行動が整合性をもって行なわれるようにするための拠り所を、普遍的な価値に求めています。共有するべき価値とは、@人権と人間の尊厳の尊重、そしてジェンダー平等、A文化、宗教、思想の多様性の尊重、B公正さ、C連帯、D自然の尊重、などです。こうした価値に基づいたアプローチというものも、この報告書の特徴だと思います。

 

2)        社会面・雇用の重視:日本企業の伝統的な考え方に通じる

 

次に、日本の企業という立場から、報告書について考えてみたいと思います。

企業経営のあり方、そして資本主義のあり方は国によって随分異なります。もちろんグローバリゼーションの中で、土俵は一つになり、拡大していますから、その土俵に通用する共通のルール、ツールを使わなければならないという側面もありますが、経営のあり方は一律ではありません。

 

報告書の中心のテーマは、経済面と社会面のバランスのとれた発展を実現することであり、現在、グローバリゼーションは経済的文脈でとらえることが多いけれども、社会面にももっと関心を払うべきということであります。ところで、経済と社会は対立する概念なのでしょうか?日本語の経済とは「経世済民」の略語であります。一説にはエコノミーを経済と訳したのは福沢諭吉であるということですが、「経世済民」とは「世を治め、民の苦しみを救う」という意味であり、単にお金のやりとりをさすだけでなく、もともと社会の安寧をめざすことが含まれていたということです。日本では、経済と社会は別々に独立して存在する概念ではなかったということになります。

 

企業経営をとってみますと、日本の経営者は、企業は経営者のものではなく、社会の「公器」であるという認識をもって、すなわち企業が社会的な存在であるということを強く認識した経営を行なってきたと言えると思います。企業は誰のものかということですが、日本の経営者は従来から、企業は企業だけのものではなく、消費者、株主、地域社会、従業員、供給者といったステークホルダーの皆さんのために存在する、企業は社会的に存在する意義を認められ続ける必要があるという立場をとってきました。今日でも、こうした既に確立されている、多様なステークホルダーへの配慮という価値観を尊重すべきと考える経営者は多いのです。

 

 日本的経営の特徴として「人を大切にする経営」が挙げられます。企業も働く側も「雇用」というものを最重要の課題として取り組んできたという歴史があるのです。そういう意味では、社会的側面への配慮の必要性を強調する委員会報告の考え方は、非常に理解しやすいものであると思います。

 

 それでは、日本の企業経営は従来とまったく同じことを続けていればよいのかといいますと、そういう訳ではありません。日本企業の課題というものを考えるとすれば、これまで、配慮の対象となってきた「人」は、自社の従業員や地域社会の人ということでありましたが、企業の活動範囲がグローバル化している中で、これからは、現地法人や取引先の従業員、そして途上国の国民など、「人」についてもグローバルな広がりの中で考える必要があるということでしょう。また、「社会」についても、地球規模で考えなければならないということだと思います。

 

3)        グローバル化改善プロセスにおけるIT活用の潜在力

 

 ICT企業の経営者として、私は、グローバリゼーションのより良いガバナンスに向けて、新技術が果たし得る役割というものを強調しておきたいと思います。報告書においても、新技術の効果として時間や距離の制約が減少し、情報、人、モノ、資本の移動コストが激減すること、世界を舞台にする経済取引の可能性が拡大し、市場はその範囲を広げると共に、扱われる財やサービスも拡大するということが述べられています。また、ICTを活用して遠隔地教育などが進むことへの期待が述べられています。私は、さらに、ネットワーク化による情報入手の飛躍的な改善が貧困の削減に有効に働くと思いますし、また、情報を受け取るだけでなく発信手段が拡大することが政策形成プロセスにおける透明性・民主性の向上につながると考えています。もちろん、ICTが充分に機能するためには、デジタル・デバイドの解消が大きな前提になります。

 

より具体的な例をお話したいと思います。628日号のビジネスウィークは、ICTで貧困と戦うインドの例を紹介しています。土地の所有記録をコンピュータ化することにより、遠隔地に住む人でもすぐに自分の記録を打ち出して、それを担保にローンが組めるようになり、地元の仲介人によるミスや詐欺が避けられること。身分の差に関係なく情報へのアクセスが平等になって、貧困層であっても適切な作物を植えたり、役人とわたりあえたり、顧客や商人と対等に取引できるようになったことが報じられています。その中心となっているコンピュータ・キオスクは今や村の活動のハブとして、商品相場情報の検索、物品購入、都市の病院への接続などの面で大きな役割を果たしているそうです。人々が生活をする現場で、少しずつではありますが、具体的に貧困の改善や生活の向上を実現している、ICTは着実に変化を形にさせているということなのです。

 

このように、生活改善に直結する新技術を生み出し、製品として安価に提供していくことは企業の大きな役割であると思います。私共も、今後もたゆまず技術革新を進め、人々の生活の向上に役立てていきたいと考えています。

 

 

2.        グローバル化の改善に貢献する企業の成長

 

1)        富の創出と分配

 

ここで、さらに「公正なグローバル化」のために、いかに企業というものが重要な働きをするかということについてお話したいと思います。

 

「公正なグローバリゼーション:すべての人に機会を作り出す」という報告書のタイトルが示しているように、より多くの国や人がグローバリゼーションの恩恵を享受し、また、そのプロセスに発言力を持てるようになることが、報告書のめざした所です。一人ひとりがグローバリゼーションの恩恵を実感するためにはディーセントワークが不可欠ということになるのですが、このディーセントワークを実現するには、何らかの形で企業活動に関わることが重要であります。報告書においても、成長や開発のためにグローバル市場との関係をもつことが重要であること、持続可能な成長と衡平な成果配分のためには、雇用や富、革新を生み出すことのできる責任感のある優れた企業が求められていると述べられています。

 

つまり、自らの創造性を生かして付加価値を作り出して所得を得るという、極めて基礎的なアントレプレナーシップ、あるいはグローバルな活動を展開する企業と取引を行なう協力会社など様々な形態はあるにしても、企業を作るとか、いろいろなレベルで「企業活動」に関わることが、仕事、すなわち、収入を得る手段を手に入れ、貧困から脱出し、豊かさに近づく方法として認知されているということであります。

 

そもそも企業は、富を創り出し、その富を賃金や税金、配当など事業活動に協力してくれた関係者に配分する訳ですが、さらに残った資金を活用して設備投資など業務規模の拡大をはかり、将来、より大きな富を生み出していくというメカニズムを持っています。利益をあげることによって、将来に亘る富の創出の存続を確保する仕組みになっているのです。こうした企業のメカニズムを活用することが国の豊かさのレベルをあげていくためには不可欠であります。

 

富は既に充分創られているのでもうよい、あとはそれをどのように公平に分配するかだという声がよく聞かれます。委員会でも、そうした発言が聞かれましたが、本当にそれで良いのでしょうか。公正な成果の分配という点で改善が必要だということについては、まったく異論はありませんが、人々の幸せやその元になる仕事を作り出していくには経済的裏づけが不可欠です。より多くの人により多くの豊かさを実現するということであれば、その元となる富を拡大すること、何よりそれを継続的に行なうことが重要になります。企業が存続することが雇用の確保や拡大を実現することにつながるのです。そのための設備投資の重要性、利益の重要性というものを理解しなければなりません。

 

 今日では、企業の存続ということを確保するためには、競争力の強化ということが避けて通れません。企業はグローバリゼーションの担い手であると同時に、それによって厳しさを増した国際競争への対応を迫られる客体でもあるのです。革新を通じた競争力の向上を実現して、企業の付加価値創出の営みを継続させていくことが、より大きな成果配分を確保するための重要な課題になっていることを認識すべきでありましょう。

 

2)        多国籍企業の果たす役割

 

 企業ということをもう一歩進めて、多国籍企業の役割についてもお話したいと思います。多国籍企業はともすると批判の矛先が向けられますが、世界の各地で富を、そして雇用を創出し、もって貧困の削減に貢献していることを正しく認識する必要があります。技術や経営ノウハウの移転、サポーティング・インダストリーの形成などによって、地元の企業の育成にも貢献しています。

 

発展のための企業、資本、技術が不足している途上国にとって、短期間に生産・雇用の拡大、資本蓄積、技術力・生産性向上の実効性を上げるには、外国からの資本・技術の導入が最も効率的な手段となります。しかし、短期的な効果の実現にとどめることなく、外資の活動を自国の企業の育成につなげていくということが重要であります。どんな国でも中小企業がその国の産業の基礎を形成しているのであり、多国籍企業やそれに連なる外国の中小企業の誘致によって、自国内に自立的な企業を育成していくことが求められます。

 

このように大きな役割が期待される直接投資を誘致することができるか否かは、その国のビジネス環境が大きな鍵を握っています。外国の企業が魅力を感じるようなビジネス環境を作ることができれば、当然のことながら、国内企業にとっても活動のしやすい環境ということで、企業活動の活性化につながるはずです。グローバリゼーションを考えるにあたって、政府の政策構築能力が第一義的に重要だということを先ほどお話しましたが、企業活動の環境整備をすること、これが政府の一つの大きな役割だということです。

 

企業の海外進出は生産・雇用の拡大、技術力・生産性の向上、人材育成といった面で現地の経済に多大な貢献を行ない、もって社会の福利の増大に寄与しています。もちろん、多国籍企業はそのように大きな影響力をもっているからこそ、公正な労働環境の提供や、CSRなどの自主的なイニシアチブによって一層の貢献を果たすことが期待されているということになります。

 

 

3.東芝におけるCSR活動

 

CSR、すなわち「企業の社会的責任」に対する関心は、グローバリゼーションや情報化の進展に加えて、消費者行動の変化,地球環境問題の広がり、企業の不祥事等を背景として急速に高まっています。こうした中で、日本の企業は、従来から大切にしてきた社会性を、時代にあった形にリファインするべく、大変熱心にCSR活動に取り組んでいます。このような企業の自主的イニシアチブを支援するため、日本経団連(私も副会長を務めています)では、先ごろ「企業行動憲章」をCSRの観点から改訂しました。

 

 アジアの国の一つである日本には、従来から「陰徳」を大切にする風土がありました。すなわち、人に知られないように良いことをすることが価値ある行ないであるという考え方です。企業は社会貢献のような良い行ないをしていても、それを宣伝するのは控えてきましたから、世の中に正確に伝わっていなかったかもしれません。透明性の向上という観点からいえば、これからはCSRのような活動についても、もっとわかりやすく外に向かって発信していくことが必要かと思います。

 

 そこで、企業の社会的責任に関する取り組みについて、具体的なイメージを持っていただくために、東芝におけるCSRへの取り組みについて少しご紹介したいと思います。東芝では、事業のグローバル化の進展や、社会からの要望の高まりを背景に、あらためてCSRの重要性を認識し、20037月に社長直属の組織として「CSR本部」を新設し、全社的な推進体制を整備し、本格的なCSR活動をスタートしました。

 

東芝は、エレクトロニクスとエネルギーの分野を事業ドメインにしています。東芝の社会的存在意義は、これらの分野において、人々の夢をかなえ、社会を変える商品やサービスを提供していくことであると考えており、今後もこの基本的な社会的役割を果たし、企業として持続的に発展していきたいと思います。

持続的な発展をしていくためには、社会からの信頼を獲得していくことが不可欠です。東芝は、@誠実で透明な経営活動、A地球環境への配慮、B地域社会への貢献をCSR活動の3つの柱とし、経営理念と従業員の具体的な行動基準として定め、体系的に取り組んでいます。経営理念は掲げられているだけでは意味がありません。従業員一人一人が実践してこそ、具体的な形に結実するのです。従って、この行動基準は全世界のグループ全員が共有する価値観、規範として12の言語に訳され、国内外のグループ会社430社で実践されています。

 

 また、全世界で事業を展開していくうえで、グループとしてめざすべき価値基準を明確にするため、人権・労働・環境での世界的な普遍的原則を示した国連の「グローバル・コンパクト」にも参加しました。

 

 環境については、「かけがえのない地球環境を健全な状態で次世代に引き継ぐことが、現存する人間の基本的責務である」という認識のもと、製品の全てのライフサイクルにおいて、投入資源の極小化と環境負荷の極小化を進めています。資源の有効活用、地球温暖化防止、化学物質の管理強化、環境調和型製品の開発、使用済み製品のリサイクルなどの活動を通じて、循環型社会の構築をめざしています。

 

 企業にとって、事業展開をしているそれぞれの国や地域において、社会から信頼と尊敬を得ていくことが、事業活動を進めていくうえでの大切な基盤です。こうした考え方から社会貢献活動にも熱心に取り組んでいます。

例えば、タイでは1991年に東芝タイ財団を設立し、技術系学生の奨学金の支給、研究開発機関への寄付活動などを行っています。また、中国では、恵まれない子供たちに教育の機会を与える「東芝希望小学校」の設立、砂漠化を防ぐための従業員参加による植林活動などを行っています。

東芝は、CSR活動を、企業の義務や責任という領域を超えて、社会に対し積極的に貢献し、社会からの信頼を獲得して、企業価値の向上につなげていく活動であると考えています。

東芝グループのスローガンは、「人と、地球の、明日のために。」という言葉です。グローバルな企業活動を通じて、より良い社会の実現のため、企業として、できうる限りの努力をしていきたいと思います。

 

ご清聴ありがとうございました。


Home | UNU Home